苦くも柔い恋
項垂れる千晃に和奏は静かに箸を置き、千晃のそばに寄った。
「千晃、顔上げて」
「合わす顔が無え。お前の人生散々引っ掻き回してどの面下げて俺は…」
きっと何と言おうが今の千晃は自身を責めて顔を上げてはくれない。
そう思った和奏は手を伸ばし、両手で千晃の顔を包んで無理矢理に視線を合わせた。
予想通り、千晃の目には微かに涙の膜が張られていたのでそのまま顔を寄せ、その額にキスをした。
「泣き虫」
悪戯に笑えば、千晃は鳩が豆鉄砲を食ったように見つめてきた。
「…は?おま、なんで…」
「いいって言ってるのに千晃がしつこいから」
頬を包んでいた手を離し、膝の上に置く。
「一回びっくりさせたほうがいいかなって」
「…お前は俺の心臓ぶっ壊す気か」
「それは困るなぁ」
そう言い、和奏は頬を緩ませて笑う。
「千晃、さっきも言ったけど私は後悔してないし、今すごく充実してるの」
「……」
「それに君が後悔してる事、変わろうと頑張ってくれた事…全部ちゃんと伝わってるから」
だから泣かないでと、声にはしなかったけれど未だ不安げな表情をする千晃の頭に手を伸ばしゆっくりと撫でた。