苦くも柔い恋
桜は起きるなり二日酔いで潰れていた。
チェックアウトギリギリまで粘り、不安に思いながらも帰りの電車に乗って帰路に着く。
幸い桜は電車内で爆睡してくれたので恐れていた事態は起きず、互いに駅についたところで別れた。
タクシーを利用した桜とは異なり和奏は最寄駅まで電車を利用し、残りの道のりをゆっくりと歩く。
[家に着いたら連絡しろ]
もはや定型文と化した千晃のメッセージの文面に眉を垂らして笑いながら一旦懐に仕舞う。
間も無くして見慣れたマンションに到着したのだが、その自動ドアの前で立っていた人物に目を見開いた。
「あ、帰ってきた。おかえり」
久しく聞く声に耳鳴りがし、軽く眩暈をおこしかけた。
力無く垂れた腕から荷物を詰めたボストンバッグが音を立てて地面に落ちる。
「美琴…」
相変わらずの美貌を放つ美琴だが、その目にかつての慈愛は欠片もない。
優しい笑顔を見せてはいるが、その奥は自分への嫌悪で満たされていた。