苦くも柔い恋


「じゃあ千晃、その会場からどうやって帰ったか覚えてる?」

「…いや」

「そうだよね。完全に潰れてたもんね」


その先は、聞かずとも想像がついた。


「もう分かるよね?私が家に送り届けたの。で、これはその時の子」


もはや美琴が日本語でない何かを話しているようにしか聞こえず、目の前がクラクラした。

嘘にしては全て辻褄が合いすぎている。
もう一体どちらの言葉を信じるべきなのか、分からなくなってしまった。


「…千晃くん、本当なの…?」


母が縋るように千晃を見た。

千晃はしばらくの無言の後、静かに言った。


「本当です」


その瞬間、気付けば立ち上がっていた。


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