苦くも柔い恋
...


どこにも行ってほしく無かった。
視界に入らないと不安で仕方がなかった。

あれだけ酷いことをして、散々泣かせた自分なんか捨てて他に行ってしまうのではないかと怖かった。

周りが見えなくなるくらい和奏に溺れていた。

和奏が受け入れてくれたから都合良く振舞っていたが、自分の行動の度が過ぎている自覚はあった。

それでも長年焦がれ続け、拗らせた先でようやく手にした和奏をどうしても離したくなかった。

囲い込んで、誰にも見られぬよう触れられぬよう仕舞い込んでおきたかった。


けれど、スーツに身を包み仕事から帰ってくる和奏はいつも輝いていたし、友人との話をとても楽しそうにしていた。
そんな笑顔を奪っていいわけがないと、必死に押し留めた。

愛というにはあまりに柔く不安定なものだった。

結局は独りよがりでしかなく、和奏に思いをぶつけるだけで彼女の心に向き合おうとしていなかったと、気づく事が出来なかった。

それでも信じるために沢山話そうと、一緒に居ようと和奏は言ってくれた。

ボロボロにに傷つけられても尚想いに応えてくれた和奏は、決して弱い女じゃない。

こんな未熟でどこまでも言葉の足りない、自分勝手な男を包み込んでくれる優しく強い女だ。

和奏はいつも大事なことに気付かせてくれる。


けれど和奏は、


——いつだって自分を蔑ろにして、他の誰かを受け入れようとするんだ。


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