苦くも柔い恋
「和奏…!?」
目が合った千晃が美琴を押し退け名前を呼ぶ。
焦りに満ちたその顔は、確かに大好きでたまらなかったものなのに心が冷えていく感覚しか湧かなかった。
「…何、してたの?」
ありきたりな台詞しか出てこなかった。
何と言われれば納得できるんだろう、なんて冷えた頭の隅で考えていると美琴が再び千晃によりかかった。
「キスだよ、しっかり見たよね?」
「オイ美琴!」
千晃が美琴の肩を掴むも、力が入っていないのかびくともしなかった。
「さっき合格発表見てね、私達2人とも受かってたの。だから嬉しくって思わずしちゃった」
「どうして…?」
「どうして?和奏ってば変な事聞くんだね」
そう言って笑った美琴の顔は、勝ち誇ったものだった。
「私と千晃、ずっとこういう関係だったんだよ」
知らなかった?と千晃の胸に身を寄せる美琴の姿に、吐き気が込み上げてきた。
——騙されてたんだ。私…
ずっと2人に。
…千晃に。