苦くも柔い恋
とっくに心の限界を超えていた和奏はすぐに踵を返し、走った。
千晃の制止の声が聞こえた気がしたけれど、どうでも良かった。
もう何もかもが信じられなかった。
美琴と付き合っていたなら、これまでの事が全て辻褄が合う。
説明なんて要らない。
気持ちを知った上で、2人で騙して楽しんでいたんだ。
勢いよく家に飛び込んでドアを乱暴に閉めれば、見たこともない娘の姿に驚きを隠せない母が駆け寄ってきた。
「和奏?突然家を飛び出すし一体どうし……」
ぼろぼろと大粒の涙を流す和奏の表情に母は真っ青になり、慌てて側に寄り強く体を抱きしめた。
母の温かな手が背に触れた瞬間、和奏の心はぽきりと音を立てて折れてしまった。
「お母さ…、お母さぁん!」
母の胸に顔を埋め、大声を張り上げて泣いた。
もう無理だった。
もう耐えられなかった。
普段からあまり感情を表に出さない大人しい娘のわんわんと声を上げて泣き叫ぶ姿に母は動揺しながらもただただ背を撫で続けた。