苦くも柔い恋
「男はな、お前が思っている以上にガキだぞ」
「……」
「好きな女の子の前なら特に。見栄も張りたくなるし、かっこ悪いところなんて絶対見せたくもない」
「…よく、分かりません」
「そうだろうなあ」
香坂は春巻きを箸で掬いながら、からからと笑う。
「懐かしいな、俺にもあるよ。好きな子の前だと途端に言葉が出てこなるなる経験」
「…?」
パリッと軽快な音を立てて齧り付き、顎を動かして飲み込んだところで続きを話した。
「思春期に入れば特にさ、女の子は驚くほど急に成長するだろ。昨日まで一緒に外走り回ってた奴が、急に大人びて"女"になる」
「……」
「そのくせ男はいつまでもガキだから、それについていけない。そりゃあ、顔見るとドギマギしてまともでいられなくなる女の子より、なんとも思ってない男同士や女友達といる方が楽だろうよ」
「それって…」
「ああ言っておくけど、これは俺の経験ね。その彼氏くんがどうかは俺は知らないよ」
「……」
「けどまあ、器用に見える奴ほど不器用だったりするからさ。…失って初めて後悔するなんて事も、無いとは言えないよな」