冷徹ドクターは初恋相手を離さない
「今さら謝ってきたってもう遅いよ……」
 非表示にしていた裕太のSNSアカウントを見ると、フォロー欄からあの綺麗な女の子のアカウントが消え、投稿していた写真も削除されたいた。
 何が起こったのかわからないけれど、裕太のことだからいくつか理由の検討はつく。

(なんでこんな人に私はいつまでも執着してるの? さっさと別れればいいってことくらい、自分でもわかってるのに)
 
 それでも私が裕太と頑なに別れようとしなかったのは、きっと結婚することにこだわったり、自分の思っていることを素直に伝えたせいで関係性が悪い方向に向かってしまうのが嫌だったからだろう。そんな自分が嫌になる。
 私は自分の思いから逃れようと、冷めかけている残り半分くらいのオムハヤシを無心で食べていく。

「うーん……」
 裕太へのメッセージにどうやって返したらいいものか、食堂から見える公園をぼおっと眺めながら考える。
 本音は、裕太と別れたい。
 浮気のことだけじゃない。薄々気づいていた。そう思うと、一気に不快に思った裕太の発言や態度のエピソードが蘇る。
 
 元彼女と私を比べるところとか、支えてほしい時に限って傍にいてくれないこととか。平気で嘘をついて隠し事をするところとこか。
 四年ほど続いた恋人としての時間を思うと、なかなか離れられなかった。だってもう三十歳になってしまう。私にとって大事な二十代後半を捧げた相手と別れるには相当な覚悟が必要だった。
 でも、どうしたらいいのかなんて誰がどう考えても答えは明らかだ。
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