冷徹ドクターは初恋相手を離さない

第5話

 帰宅後、私はいつものように手洗いうがいをして今日着ていたユニフォームを洗い、お湯を張ってお風呂に入る。その後は食事。週末に作り置きをしておいたおかずやお米を温めて食べるのが私の日課だ。
 一人暮らしだから、疲弊して帰ってきても誰かが迎えてくれるわけでもないのがすこしだけ寂しく思う。

「ふう……」
 実習期間中は帰宅してからがむしろ本番だと私は思う。
 看護記録や計画の見直し、今日不足していた知識を補うための勉強に、明日の計画立案とそれに伴う予習などなど……。とにかくすることがたくさんある。それをすべてこなしてから眠りたい。そしてなるべく日付をまたがないようにするのが目標。
 となると、タイムリミットは食事や入浴の時間等を除けば多く見積もっても五時間。効率よく物事を進める必要がある。

「明日は吉村さんのオペだから……えーっと、手術看護の復習、っと……」
 手術を見学すると言ってもただ見るだけではない。
 手術に携わる看護師の役割はもちろん、観察項目、援助の知識、患者の身体変化など授業で学んだことをフル活用して挑む必要があるから、とても復習には力が入る。
 お風呂のお湯を溜めている間に使いそうな資料や教科書、参考書を並べておいてすぐ取り出せるように環境整備をして、軽く帰宅途中に考えていた翌日の援助計画を見直して清書していく。

「よし。とりあえずこんなもんか……って、あああ!」
 そうしているうちにあっという間に湯船いっぱいにお湯が溜まっていて、慌ててお湯を止めに行った。
 お湯が溜まるとすぐに入浴。スマホなんて見ている余裕はない。
 髪の毛や身体をささっと洗ってすぐにシャワーで泡を落とす。我ながら女子力の欠片もないなと感じてはいるが、丁寧に洗う余裕も時間もないのだ。仕方のないことだ! と開き直っている。
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