冷徹ドクターは初恋相手を離さない
「それより直哉さん。うちの地元、とっても綺麗に星空が見えるし山から見える夜景も評判がいいんですよ!」
「そうなんだ。じゃあ、行く?」
「また、いつかゆっくり見れる時にでも行きたいです」
 今日は旅館に泊まるということだし、そうなるとチェックインも早い時間だ。そんなこと言ったら迷惑に決まっている。
 そう思った私は、行きたいと言わないでおいた。
「そうか……でも、矢津田市ならどこにいても綺麗な星空が見えるだろうからな。楽しみだ」
「そうですねぇ」
 車で長時間二人きりになるなんて初めてだから、話が弾むか心配だったけれど、直哉さんは話を聞くのが上手くて、どんどん会話を引き出される。おかげで会話が弾んでいた。
 ここでさりげなく直哉さんの過去エピソードを聞いていきたい。
「そういえば直哉さんのお話、あまり聞けていないですよね。私ばっかり話してしまって。いろいろ聞きたいです」
「俺の話? うーん、話していないことといえば家族の話か?」
「そうですね。実家が横須磨にあるということしか知らないです」
「そうだったっけ。父と母と姉、俺の四人家族で、俺の父は開業医で祖父は元医者。父方の家系は戦時中から医師の家系だったらしい。母は看護婦。両親はお見合いで結婚したとか」
「なんだかすごいですね。もしかして、医師を目指そうとしたのは……?」
 まさか代々続く医師一家の子息だとは思わなかった。こんな家柄の良い人と交際していてもいいのだろうか。
「それは関係ないよ。四つ上の姉が先に医師になるつもりだったし。それに俺は家族から強要されてなったわけじゃないんだ。ただまあ、医師という職業が身近にあっただけだ」
「たしかにそうですよね。私も看護師になりたかった理由、仕事している様子を見たからですしね。それにしても姉弟ふたりで医師ってすごいなぁ。かっこいいです」
「ははっ、そんなことないよ」
 私は小学生の頃、看護師に憧れていたっけ。
 入院していた友達のお見舞いで病院に行った時、仕事をこなしている姿や患者への声かけやタッチングで不安な気持ちが和らいでいく様子を見て、『すごいな、かっこいいな』って思って、憧れていた気がする。
「直哉さん、もっとお話してください!次は──」
 それから私は、直哉さんの中学生の時の話や高校生の時の話、柔道の話など知りたかったことを聞いていった。
 その質問ひとつひとつに対して、思い出話を語るように楽しく話してくれる直哉さんを見ていて安心した。この会話が不快に思われているわけではないのだと感じられたから。
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