冷徹ドクターは初恋相手を離さない
「嫌じゃないですよ! そうじゃなくて……びっくりしちゃって」
「だって今回の墓参りだって、詩織の家族とのご対面だろう?」
そう言われると、反論ができない。たしかにその通りだ。
私の祖父母は既に他界しており、母にきょうだいはいない。となると、あのお墓参りが私の家族への挨拶になるというわけか。
「たしかにそうですね……」
「だろう? だから今度はうちに来てほしいってことだ」
「ふふ、わかりました」
なんだか嬉しくて、でもちょっと面白くて思わず笑ってしまう。
私は口元を隠してくふくふと笑っていると、直哉さんはきょとんとしながら運転をしていた。
「そういえば直哉さん、どうして乳腺外科の専門医になろうと思ったんですか?」
「そうだな。簡単に言えば、いちばん心残りだったからだ」
「心残り、ですか?」
「ああ。俺にとって乳腺外科がいちばんいろいろ考えさせられた科だったし、もっとここで頑張りたいと思った科でもあるんだ」
山の中に入ってきて、カーブの坂道が増えてくる。木々が生い茂る道は木漏れ日が射していて、影が次々と去っていく。薄暗い車内で見つめた直哉さんの目はとても輝いていた。
「乳腺外科はただ手術してがんを取って終わりじゃない。手術の難易度や術後のケアとかで言ったらほかの科より簡単かもしれない。でも、乳腺外科はそれだけじゃないんだ。例えば、患者の年齢によっては子どもを希望する場合もある。そうすれば化学療法の前に妊孕性温存の支援をするし、乳房再建を望む人がいればそのために形成外科とも連携をとる。もちろん外来では乳がん検診だってする。場合によってはターミナルケアまで関わらせてもらうこともある。外科に持つイメージは手術をするところだろうが、乳腺外科は違うんだ。その人の人生に寄り添う必要があると感じた。そこが難しいし、面白いと思った。だから、それらを探求するために乳腺外科に進んだ」
直哉さんが冷徹な人だ言われるのは、患者さんのことを第一に考えているからなのだろう。
正しい知識と確かな技術により安心と安全を提供する。特に看護師は関わる時間が長いから、より求められるレベルが高い。不足しているものがあるなら努力して身につける。自己研鑽を怠らない。不安を抱える患者さんのために。
直哉さんはそうやって医師として生きてきたんだ。
「だって今回の墓参りだって、詩織の家族とのご対面だろう?」
そう言われると、反論ができない。たしかにその通りだ。
私の祖父母は既に他界しており、母にきょうだいはいない。となると、あのお墓参りが私の家族への挨拶になるというわけか。
「たしかにそうですね……」
「だろう? だから今度はうちに来てほしいってことだ」
「ふふ、わかりました」
なんだか嬉しくて、でもちょっと面白くて思わず笑ってしまう。
私は口元を隠してくふくふと笑っていると、直哉さんはきょとんとしながら運転をしていた。
「そういえば直哉さん、どうして乳腺外科の専門医になろうと思ったんですか?」
「そうだな。簡単に言えば、いちばん心残りだったからだ」
「心残り、ですか?」
「ああ。俺にとって乳腺外科がいちばんいろいろ考えさせられた科だったし、もっとここで頑張りたいと思った科でもあるんだ」
山の中に入ってきて、カーブの坂道が増えてくる。木々が生い茂る道は木漏れ日が射していて、影が次々と去っていく。薄暗い車内で見つめた直哉さんの目はとても輝いていた。
「乳腺外科はただ手術してがんを取って終わりじゃない。手術の難易度や術後のケアとかで言ったらほかの科より簡単かもしれない。でも、乳腺外科はそれだけじゃないんだ。例えば、患者の年齢によっては子どもを希望する場合もある。そうすれば化学療法の前に妊孕性温存の支援をするし、乳房再建を望む人がいればそのために形成外科とも連携をとる。もちろん外来では乳がん検診だってする。場合によってはターミナルケアまで関わらせてもらうこともある。外科に持つイメージは手術をするところだろうが、乳腺外科は違うんだ。その人の人生に寄り添う必要があると感じた。そこが難しいし、面白いと思った。だから、それらを探求するために乳腺外科に進んだ」
直哉さんが冷徹な人だ言われるのは、患者さんのことを第一に考えているからなのだろう。
正しい知識と確かな技術により安心と安全を提供する。特に看護師は関わる時間が長いから、より求められるレベルが高い。不足しているものがあるなら努力して身につける。自己研鑽を怠らない。不安を抱える患者さんのために。
直哉さんはそうやって医師として生きてきたんだ。