冷徹ドクターは初恋相手を離さない

「葉山さん、大丈夫？　無理せずこまめに休憩とりながらやってね」
「あ、ありがとうございます。すみません、なんか今日はいつもよりおなかの張りが強くて……」
　師長さんは申し送りの後、個人的に声をかけてくれた。
　実は相談するほどでもないかな、と思っていたけれど出勤してからいつもよりおなかの張りが強いことに気づいていたのだ。

　師長さんが言うには、これまで何人もの看護師が無理に仕事をして流産してしまったのを知っているので、よく『無理せず自分の身体第一で』と妊娠している看護師には声をかけているらしい。
　上司の方からそういう声がけをしてもらえると、こちらとしても相談がしやすい。
　おなかの張りはここ数日あったものの、少し休むと落ち着くため様子見をしていたところだ。

　現在、妊娠三十週。健診が二週間に一回の頻度になったので、次の健診まで経過観察しようとしていたのだ。

「そっかそっか。心配だよね。みんなにはちゃんと言っておくから、そこは心配しないで。じゃあ今日も無理せずにね」
「はい、ありがとうございます。じゃあバイタル行ってきますね」
「はーい、いってらっしゃい」

　私は師長さんとの会話を終え、午前の業務に向かった。
　体温や脈拍、呼吸状態、血圧やサチュレーションの測定に加えて、術後の患者さんであればドレーンの固定状況や排液の性状、創部の感染徴候の有無、リハビリの実施状況、創部の痛みの程度などを患者さんに聞いたり見たり五感を使って観察していく。
　私は妊娠前よりも歩く速度は遅くなって入ると思うが、ついクセで早歩きをしてしまう。

「失礼しまーす、おはようございます。今日担当の荒木です。よろしくお願いします」
　私はいつも通り挨拶から始まり、昨夜眠れたかどうか、気がかりなことはあるか、バイタル測定と同時に痛みの程度を聞いたりなど患者さんの観察に必要なことをてきぱきと情報収集していく。