冷徹ドクターは初恋相手を離さない
「リハビリ体操の動きも一通りできていますし、順調にリハビリできていますね。この調子でもう少し続けていきましょう」
 痛みが強いとリハビリできなかったりベッドで過ごしてしまう人もいる。そういった場合は鎮痛剤の追加を医師に相談したりする。
 今日はまだ、荒木先生……直哉さんを病棟で見かけていないけれど、結婚したとはいえ私はまだ異動していない。しかし、出産後の復帰を機に外来への異動希望を出しているので人事側も都合が良かっただろう。
「では何かあったらナースコールをお願いします」
 次々と受け持ち患者の部屋を訪室していき、業務をこなしていく。
 一通り午前の巡回を終えて、おなかの張りも少し感じていたのでナースステーションに戻ろうとした時。
「いった……」
 いつもとは違う痛みが突然私を襲う。おなかの張りも徐々に強くなってきた気がして、ナースステーションに戻ってイスに座る。すると何か陰部から湿っぽい分泌物が出てきた感覚があった。私はもしかしたら、と思いドキドキと焦りと不安に駆られながらもトイレに向かう。
「あっ……血……」
 この症状から考えられることは切迫早産の可能性。
 私は泣きたくなるのを抑えながら師長さんに相談をした。そしてすぐにかかりつけの産婦人科クリニックに電話をかけて相談をすると『すぐに受診してください』と話され、クリニックを受診。すると、切迫早産と診断を受け、さらに入院管理が必要だと判断され、私は地域周産期母子医療センターである清美大学医学部附属病院に入院することとなった。
 その後は、ベッド上安静で子宮収縮抑制薬の持続点滴が開始され、不安な日々が続いた──
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