冷徹ドクターは初恋相手を離さない
「分娩が進んだらLDRに移動してもらうけれど、今はとりあえずお部屋で待機ね」
 恰幅のいい五十代くらいの助産師さんが病室に案内した後に軽く説明してくれた。
 陣痛がまだ来ていないから、病室で待機ということだろう。
「何かあったらナースコールで教えてね!」
 そう言って速やかに助産師さんは退室していった。
 私は陣痛もまだ来ないだろうと思い、動けるうちに荷物を整理していく。今はちょうど正午。
 家から持ってきていたロールパンと野菜ジュースで軽く昼食を摂り、早ければ今日の深夜には生まれるのだろうか、なんて考えながらお昼に放送しているバラエティー番組を眺めていた。
 この時はまだ陣痛が来る気配すらなくて、ご飯を食べたり眠ったり、テレビを見る余裕やSNSを眺めている余裕があったのだが……。
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