冷徹ドクターは初恋相手を離さない

第3話

 現在の時刻は十二時半。
 午前のうちに予定通り入院手続きを済ませて病棟に来た受け持ち患者である吉村さんと、昨日手術を終えたという村田さんに挨拶を済ませることができた。その流れで実習に関する簡単な説明をした上で同意書へのサインをしてもらった。これで正式に実習がスタートできるということだ。
 その後、軽く私の自己紹介をして、手術や退院後のことで気になっていることがないかといった質問をしてお話をしていたらちょうど昼休憩の時間になっていた。
 「また午後に来ますね」と伝えて退室し、 指導者である藤野さんにも一言声をかけ、お昼は密かに楽しみにしていた病院内の食堂に来ていた。
 ここの食堂は安くて美味しいと学生の間でも評判だったから、一度行ってみたかったのだ。

「うわぁ美味しそう~」
 オムハヤシを注文すると、大きくて綺麗な卵に食欲をそそる香りのハヤシライスソースがオムライスを囲んでいる。
 視覚も嗅覚も刺激されて、お盆に載せたオムハヤシが視界に入ると、ぎゅう、とお腹が鳴る。
 私は急いで確保していた窓側の隅の席に歩いていき、すぐに着席した。
 
「いただきまーす!」
 記念に写真を一枚だけ撮ってから手を合わせて小さく『いただきます』と呟いて食べ始める。
 学生の実習でつらいだなんて言っていたら怒られてしまいそうだけど、社会人を経験した私であっても実習の方がつらい時もあった。
 でも、私は美味しいものを食べることで大体のことは乗り越えられている気がする。
 これが私のストレス対処法なんだ。とんでもないカロリーを摂っている自覚はあるけれど、そう自分に言い聞かせてぱくぱくとこの美味しすぎるオムハヤシを堪能する。
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