エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 夕方五時。今日の業務を終えた私は、残業中の人たちに挨拶をするとフロアを出た。
 今日は本当にびっくりしたな。まさか、自分がプロジェクトメンバーに選ばれるだなんて。
 その後はAnge Premierの企画会議もあったから、一日中バタバタしていて疲れちゃったよ。
 帰る前に、カフェテリアで休憩していこう。
 
 カフェテリアは高層階にあるので、今の時期は窓から皇居の桜を見渡すことが出来る。
 一日頑張ったご褒美ということで、カフェモカとバナナマフィンを注文。トレイを持って、窓際のカウンター席へと移動する。

「あっ」

 するとそこに、思いがけない人がいた。
 姿勢良くスツールに腰掛け、ホットコーヒーを口にしながら、眼下で咲き誇る桜を眺める素敵な男性。御堂課長だ。
 私の声に顔を上げた彼が、こちらを認めて少し目を見開いた。

「藤島さんか。お疲れさま」

「お、お疲れさまです」

 おずおずと頭を下げる私。
 本来なら、上司にここまで緊張する必要はないと思う。
 だけど、御堂課長は次期社長で、しかもとんでもなく美形だ。恐れ多い気持ちになる。

「あの……御堂課長。ひとつ質問があるのですが、ちょっとだけお時間よろしいですか?」

 それでも、この機会に聞いてみたいことがあった。

「ああ。構わない」

 御堂課長はすんなりと承諾した。

「ありがとうございます。あの、」

「待て」

 片手で私を制する御堂課長に、きょとんとした目を向ける。すると、彼は隣の席を指し示した。

「座らないのか」

「あ、すぐに終わりますから」

「トレイを持ったままそこに突っ立っていられると、俺が落ち着かない。まずは座って、飲み物でも口にしたらどうだ」

「はい……」

 私はおとなしく御堂課長の隣のスツールに腰掛けた。
 今朝の指輪探しといい、感情のままに行動するのは自分の悪い癖だな。しかも、二回も御堂課長にたしなめられちゃったよ。嫌われないといいけど。
 そう思いながら、カフェモカをひとくち飲む。緊張で乾いた喉を潤してから、私は彼に向き直った。
< 10 / 108 >

この作品をシェア

pagetop