エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 御堂課長は、今朝も見せてくれた優しい微笑を浮かべて話す。

「藤島さんの指輪は、昔の物なのによく手入れされていて、綺麗な状態を保っていた。Angeの指輪を宝物と呼び、ここまで大切に扱っている君なら、きっとAnge Premierの価値を高めてくれると思ったんだ」

「……」

 私は何も言えずに黙り込んだ。
 嬉しさで涙が出そうになっていたからだ。
 十一年前、ある出来事で傷付いた私に、名前も知らない人がくれた指輪。
 あれからずっと大事にしていたし、どんな時も身に着けていた。
 そんな宝物が、私を新しい場所へ連れて行ってくれようとしている。

「ありがとうございます。私、頑張りますね」

 何とか涙を引っ込めて、感謝を伝える。

「ああ。期待している」

 御堂課長は頷くと、視線を窓の外へと向けた。つられて私も、一面ガラス張りの窓越しに皇居の桜を眺める。
 少しずつ日が長くなり、現在の空はまだ明るさを残している。少し離れた場所には高層ビルの群れ。そんな青と灰色の景色を華やかに彩る皇居の桜は、ほぼ満開だ。
 ほんの少しの期間だけ楽しめる、夢のような春の世界。

 御堂課長が満足そうな笑みを見せる。

「久しぶりに東京の桜を見たが、やはり美しいな」

「確か、アメリカにお住まいでしたよね」

「ああ。暮らしていたニューヨークでも桜は見られるが、風情あるこの景色は日本ならではだな」

 私に向かってそう言ってから、御堂課長は再び視線を桜に戻した。
 その横顔をそっと盗み見る。印象的な切れ長の瞳。鼻から口元に掛けてのラインが計算されたかのように整っていて、桜に負けないくらい綺麗だと思った。
 そんなこと、恥ずかしくて本人に言えるはずがないけれど。

 私も桜に染まる景色を眺める。
 新しく何かが始まる予感がした。
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