エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 声のした方を見ると、御堂課長が私たちの元へやって来るところだった。いつも通りのクールな表情だったけれど、私が野田さんに肩を抱かれているのを見て、眉をひそめる。

「野田。社内でナンパとはいい度胸だな」

 冷たい声音に、野田さんがパッと手を離して愛想笑いをする。

「やだなぁ、課長。これはナンパとは違いますって。俺はただ、落ち込んだ彼女を励ましているだけですよ」

「そうか。取り込み中のところ悪いが、俺は藤島さんに話があるんだ。先ほど受け取った資料のフィードバックは明日するから、今日はもう帰れ」

 有無を言わせぬ物言いに、野田さんは渋々といった様子で「それじゃ……お疲れさまです」と頭を下げて去っていった。
 そのやり取りを眺めていた私は、内心、ホッとする。偶然でも、御堂課長が野田さんを帰してくれて助かった。

「大丈夫か?」

 不意にそんなことを聞かれて、私は自分がぼーっとしていたことに気付いた。野田さんの誘いに緊張していた反動で、気が抜けちゃったみたい。
 いけない、御堂課長は私に話があるって言ってたよね。

「すみません、何ともないです。えっと、何のご用ですか?」

「特に用はない」

「えっ?」

「藤島さんが野田に迫られて困っているように見えたから、声を掛けただけだ」

「あ……」

 御堂課長は、私と野田さんのやり取りを目にして助けてくれたんだ。

「あの、ありがとうございます。本当に助かりました」

 私はぺこりと頭を下げた。まだ出会ってから日も経ってないのに、御堂課長にはお礼を言ってばかりのような気がする。
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