エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
「礼はいらない。部下の指導も俺の仕事だ。野田がまた何かしてきたら報告してくれ」

「分かりました」

 もう一度頭を下げて、この場を去ろうとすると、

「鬼上司、か」

 御堂課長が野田さんがさっき言った呼び名を口にしたので、私は慌てた。

「あっ、聞こえてたんですね。えぇっと、あれはあくまで野田さん個人の意見というか」

「いや、俺がプロジェクトメンバーにそう呼ばれていることは知っている。前任の課長が物腰柔らかい方だったから、余計だろうな」

 苦笑する御堂課長を見て、それは確かに、と心の中で頷く。前任の課長は、五十代のいつもニコニコしていて優しいおじさまだったのだ。だから、企画課の雰囲気も和気あいあいとしていた。

 だけど、新ブランドAnge Premierを成功させるためには、御堂課長のようなシビアな視点も必要だと思う。
 Ange Premierが売り出すのは、従来のAnge製品よりも高価なブライダルリング。ターゲットも競合もAngeとは違う。
 新米の私でも、これまでのやり方を変えなきゃいけないってことは理解している。

「藤島さんに厳しく接しているつもりはなかったが、気にしていたのなら申し訳ない」

 だから、そう言って御堂課長が謝ってきた時、私は首をぶんぶんと左右に振っていた。

「違います、御堂課長のせいではありません。私、全然お役に立ててないから」

 無意識に、服の上からネックレスに触れていた。切れてしまったチェーンはすぐに新しいものに交換して、今も指輪は肌身離さず着けている。
 宝物の形を指でなぞると、途端に情けなさが込み上げてきた。

「藤島さん」

 そんな私に、御堂課長はこんなことを言った。

「退社の準備をしたら、一緒に出よう。君を連れて行きたい場所があるんだ」
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