エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 退社後、御堂課長とタクシーで向かった先は銀座だった。
 車内で彼が運転手に行き先を告げた時、私は「えっ?」と声を出してしまった。
 御堂課長が口にしたのは、有名なジュエリーショップの名前だったのだ。

「今からそのお店に行って、何をするんですか?」

 隣に座る御堂課長に尋ねると、淡々とした口調で目的を伝えられる。

「店舗視察だ。藤島さんにはこの店で、自分がずっと身に着けたいと思うアクセサリーを選んでもらう」

「えっと、それは、お客様目線に立つ練習ということでしょうか」

「そんなところだな。店は貸し切りにしてあるから、心ゆくまで選んでみてほしい。閉店時間も気にしなくていいから」

「あの後すぐに予約されたんですか? 直前の連絡で、よく貸し切りに出来ましたね」

「ああ。知人のつてがあるからな」

 知人のつて……一体、どんな人なんだろう。やっぱりセレブなのかな?
 とにかく、御堂課長の労力と時間を使わせちゃったんだから、店舗視察ではしっかりと学ばないと!

 タクシーの中でふたり無言でいると、ふと、さっき野田さんに肩を抱かれた時のことを思い出した。
 彼の手の感触がよみがえり、背筋がゾクッと寒くなる。
 いまだに男性に触れられるのは苦手だ。

 でも、と、私は御堂課長と出会った日の記憶を辿る。
 転びそうになって彼に抱きとめられても、別に嫌な気持ちにはならなかった。どうしてだろう?
 まあ、あの時は落とした指輪のことで頭がいっぱいだったものね。
 そんなことを考えているうちに、タクシーはジュエリーショップの前に到着した。
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