エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
「新年度初日は、必ずこうしているんだよね」

 高くそびえ立つ本社ビルを見上げ、ネックレスのトップをぎゅっと握り締めて誓う。

「これからの一年も、皆に素敵なアクセサリーと幸せを届けられるように、頑張って働くぞ……あっ!」

 強く握っていたのがよくなかったのだろうか、ネックレスのチェーンが切れてしまった。
 驚いた私の手から、ネックレスのトップが地面に落ちて転がっていく。

「やだ、待って……きゃっ!」

 慌てて追いかけようとしたけれど、ヒールパンプスを履いた足がバランスを崩して転びそうになった。
 眼前にコンクリートの地面が広がり、私は両手を伸ばして目を閉じた……のだけど。

「あれっ?」

 少し経っても衝撃は起きない。
 それもそのはず、男性のがっしりとした腕が、私の身体を抱きとめてくれていた。

「ご、ごめんなさい! ありがとうございます」

 振り返った私は、相手の顔を見上げて思わず息を呑んだ。

 私を助けてくれたのは、ものすごく美形の男性だった。
 歳は三十歳くらいだろうか。吸い込まれそうな切れ長の瞳。すっと通った鼻筋に薄い唇。
 きっちりとセットされた黒髪は艶やかで、スーツ姿と相まって有能そうな雰囲気を醸し出している。
 百八十センチ以上はあるだろうか。手脚が長くて、小柄な私とでは相当な身長差がある。
 そんな素敵な人の腕の中に、私はすっぽりと収まっていたのだった。
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