エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 ファッションブランドの撮影に来たモデルさんかな? 芸能人並みにカッコいいもの。
 ぼーっと見惚れてしまう私。だけど、ハッと大変なことを思い出す。

「そうだ、宝物が!!」

 男性の腕から抜け出そうとすると、彼が「宝物? 何か落としたのか」と、落ち着きのあるバリトンボイスで聞いてきた。
 声までカッコいいだなんて……とドキドキしたけれど、今はそれどころじゃない。

「指輪を落としてしまったんです」

 私がさっき着けていたネックレスのトップ。それは、十三歳の時にある人から貰った大切な指輪だった。
 それなのに……。肩を落として言うと、私から身体を離した男性は辺りを見回す。

「そうか。じゃあ、俺も探そう」

「えっ、ありがとうございます!」

 そこまでしてもらうのは申し訳ないけれど、今のこの状況ではとても有り難い。

「指輪の特徴は?」

 クールな表情と声音で聞かれ、私は思わず背筋を伸ばして答えた。

「ピンクゴールドの指輪で、王冠をかたどったデザインです。中央にはピンクサファイアがセットされていて……あの、どうかされましたか?」

 男性の顔が段々と険しくなっていったように見えたので、おそるおそる聞いてみる。

「いや、何でもない。人の流れが多い場所を今探すのは危険だから、それは後にしよう。他の場所で落ちている可能性が高そうなのは、こことあの辺りだろうな。手分けして探そう」

「はい」

 あれ、気のせいだったかな?
 それにしても、冷静な性格の人で良かったな。自分の頭にも落ち着きが戻ってきたみたい。

 私はスカートの裾に気を付けながらしゃがむと、辺りを探し始めた。
 少し離れたところでは、男性が地面に膝を付いて探してくれている。オーダーメイドっぽい素敵なスーツが汚れそうで忍びない。
 でも、自分ひとりで探していたら、もっと悲しい気持ちになっていただろうから、彼からの申し出は本当に嬉しかった。
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