エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 声のした方を見ると、すらりと背の高い男の人がいた。サラサラの黒髪に、無地のシャツとデニムというシンプルな服装。
 今ではその顔立ちをはっきりとは覚えていないけれど、とてもカッコいい人だった。大人っぽい雰囲気があったから、大学生かな。
 お兄さんは私と男の子たちの間に割って入ると、庇うような体勢を取った。

「よってたかって女の子を怖がらせて、恥ずかしいとは思わないのか?」

「いや、何言ってんの? この子が勝手に転んで、勝手に拒否ってるだけだって」

 反論しかけた男の子だったけれど、

「言い訳はいらない。とっとと立ち去れ」

 怒気を(はら)んだお兄さんの声に、言葉を継げなくなったようだ。

「チッ。正義のヒーロー気取りかよ、ダッセェな。しらけた、行こうぜ」

 男の子はそう言い捨てると、他のふたりを引き連れてその場を去って行った。

 呆然と状況を見つめていると、お兄さんがこちらを振り返った。思わず身体をビクッとさせてしまう。
 でも、さっきとは打って変わって、お兄さんの声と表情は気遣わしげなものになっていた。

「大丈夫か。どこか痛むのか?」

「あ、怪我はないです。どこも痛くありません。ただ、怖くて、脚に力が入らなくなっちゃって」

 恐怖から立てなくなってしまった私に、お兄さんは「そうか」と頷いた。そして、私の傍らにあったショッパーを自分の肩に掛ける。

「近くに公園があるから、そこのベンチまで連れて行く。少しの間だけ我慢してくれ」

「えっ……きゃっ!」

 お兄さんの力強い腕に抱き上げられて、私は驚いてパチパチと瞬きした。
 お姫様抱っこの体勢で歩き出すお兄さん。道行く人たちが何事かとジロジロ見てきて、私は恥ずかしくなって彼の肩に顔を埋めた。
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