エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 しばらくそうしていると、

「ほら、着いたぞ」

 声を掛けられて、パッと顔を上げる。いつの間にか、小さな公園に到着していた。
 そっとベンチに降ろされる。ふと、身体の変化に気付き、私はベンチから立ち上がった。何度か足踏みする。

「あっ、脚が動くようになりました! すみません、運ばせてしまって」

「気にしなくていい。どこも怪我してなくて良かったな」

 私はベンチに座ると、心配しているであろう両親に電話を掛けた。道に迷ってしまったことと、今いる場所を告げて通話を終える。

「お父さんが、ここまで迎えに来てくれるそうです。あの、色々とありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げると、お兄さんは何てことない調子で、「そうか。じゃあ、お父さんが来るまで一緒にいよう」と言ってくれた。
 正直、あんなことがあった後にひとりでいたくなかったので、その優しさが嬉しかった。

「……」

 その後は、ふたり黙ったまま過ごした。
 私は緊張していたし、お兄さんも口数の多いタイプではないみたい。
 手持ち無沙汰で、さっき服を買ったお店のショッパーの中を覗き込む。すると、お兄さんがショッパーに書かれた店名のロゴに目を留めた。

Gâteau au Chocolat(ガトーショコラ)か。最近、人気があるな」

「あ、はい。よく知ってますね」

 Gâteau au Chocolatは、女子中高生向けのファッションブランドだ。フレンチガーリーをテーマに、上品なカジュアルスタイルを提案している。
 実はAngeと同じMIDOU系列のブランドで、今でもガーリーコーデが好きな女の子たちに人気だ。
 お兄さんが女の子向けのブランドを知っていたのは意外だった。もしかしたら、妹さんがいるのかもしれない。

「私の住む千葉には店舗がなくて。今まではサイトで買ってたんですけど、一度お店にも行ってみたかったんです」

「それで、わざわざ東京に来たのか?」

「はい。東京旅行の予定があったから、必ず行こうと思ってたんです。今日のためにお小遣いを貯めました」

「実際、行ってみてどうだった?」

 何故か真剣な瞳をしたお兄さんの質問に、私はGâteau au Chocolatでお買い物をした時のことを思い出す。思わず、笑みが零れた。
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