エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
「へえ〜、そうなんですか。乃愛はその人と話したの?」

 沙希に聞かれて、私は再び笑顔を作った。

「うん、サンプルチェックに来てたから。仕事熱心な人だったよ」

 すると、円香さんがヒソヒソ声で告げる。

「それでね。私、秘書課の同期から聞いたんだけど、篠崎さんは御堂課長と深い仲なんですって」

「えっ?」

 私と沙希の声が重なる。
 そんなはずはないよ、征士さんは私の恋人なのに……。
 円香さんは、篠崎さんが勤める会社名を挙げた。

「篠崎さんは、そこの社長の娘さんなのよ。昔から親同士仲が良くて、御堂課長と篠崎さんは許婚(いいなずけ)の関係らしいわよ」

 顔から血の気が引くのを感じた。
 そんな話、征士さんからはひとことも聞いていない。
 でも、確かにふたりは親しそうだった。篠崎さんは、私が征士さんの恋人だと知らないようだったし。
 もしかして、私は征士さんが結婚するまでの単なる浮気相手なの?

「乃愛、早く食べないとお蕎麦が伸びちゃうよ?」

 私の征士さんへの恋心を知っている沙希が、気遣うような声を掛けてくれる。

「あ、そうだね」

 小声で応えて手を動かす私。ふと、左手首のブレスレットが目に入る。ロードライトガーネットの赤みを帯びた色が、いつもより暗く重々しく見えた。
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