エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました

婚約者の正体

 篠崎(しのざき)さんが征士(せいじ)さんの婚約者だと聞いて以来、私の心は重く沈んだままだった。

乃愛(のあ)、どうかしたか?」

「えっ」

 征士さんの声で我に返る。いけない、ぼーっとしてた。
 今日は仕事終わりに、私の部屋で征士さんに手料理を振る舞っている。
 終業が早い私が先に帰宅して料理を作り、後からやって来た征士さんを出迎えた。
 今はローテーブルを囲んで、手作りのハンバーグやシーザーサラダを食べているところ。

「仕事が忙しいのに料理までさせて、疲れただろう」

「いえ、そんなことは。簡単な物なら普段から作っているので」

「それは感心だ。俺なんて、外で済ませることが多いからな」

「征士さんは、私よりもお忙しいですから」

 いつも通りの温かな時間のはずなのに、私の心中は複雑だ。

――征士さん。篠崎さんは、あなたの婚約者なんですか?

 すぐにでも聞いてみたいのに、出来ない。
 場の空気が悪くなるし……もし、その話が本当だったら? そう思うと、今の穏やかな時間を壊したくない気持ちが勝る。
 それだけ、私はこの人から離れたくないのだった。
< 69 / 108 >

この作品をシェア

pagetop