エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 明日は土曜日だけど、征士さんは仕事の予定があるみたい。食事の後は早めのお別れとなった。

「悪いな、洗い物まで任せてしまって。それに、本当ならまだ君と一緒に居たいところなんだが」

 食器をキッチンシンクまで運んでくれながら、征士さんがすまなそうな顔をする。

「気にしないでください。会う時間を作ってくださって、ありがとうございます」

「こちらこそ、美味い手料理をありがとう」

 征士さんは微笑むと、私に近寄り、優しい手付きで頭を撫でてきた。
 慣れない行為が恥ずかしくて俯くと、征士さんの手が頬から顎へとゆっくりと滑り、私の顔を上向かせる。
 彼の瞳が近付いてきたその時、篠崎さんの姿がサッと頭を過った。

「……!」

 私が身体を強張らせたのに気付いた征士さんが、動きを止める。

「すまない、怖がらせたな」

 申し訳なさそうな顔をして、私から手を離した。

「ごめんなさい。私……」

「いや、今のは俺が悪い。乃愛が男性に触れられるのが苦手だと知っていたのに、キスしようとしたんだからな」

 私は口を噤んだ。
 決して私は、征士さんにキスされるのが怖いんじゃない。
 むしろ、あなたにもっと触れてほしいのに。
 そう思うのに、言葉が出てこない。
 征士さんは表情を引き締めると、私の目を真っ直ぐに見て言った。

「今度からは、乃愛が嫌がることはしないと誓う」

「征士さん……ごめんなさい」

「謝らなくてもいい。ふたりのペースで仲を深めていけばいいさ」

 微笑む征士さん。こんなに優しい人が、浮気なんてするはずがないよ。
 そう思う一方で、あの日の自信満々だった篠崎さんが、どうしても気になってしまうのも確かだった。
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