エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
第五章

君の笑顔に惹かれて〜side征士〜

 ゴールデンウィークに似合いの爽やかな青空が広がる今日、俺は父に呼ばれて丸の内にあるMIDOU本社へと来ていた。
 大学は休みだが、会社社長である父――御堂(みどう)征一郎(せいいちろう)の仕事に既に関わっていることもあり、休日でもこうして予定が入る。

「あと五分……間に合うか」

 休日出勤者がまばらにいるオフィスに入り、エレベーターに乗り込んで社長室へと向かった。

「父さん、時間ギリギリの到着ですみません。電車が少し遅れてしまって」

 謝罪をしながら社長室へ入ったが、父は何故か機嫌が良さそうだ。
 俺とそう変わらない上背に、自社製のオーダースーツを身に着けた父は、五十代にしては若々しい。一方で、MIDOUの経営を軌道に乗せた自信に満ち溢れ、大企業の社長としての風格もある。
 実の親であるのに、俺は父の前に立つ時は、内心緊張している。

「連休中だからね。それよりも、これを見てくれ! 素敵な仕上がりだろう?」

 精悍な表情を崩して、楽しそうに見せてきたのは新製品のサンプルだ。ペアアクセサリーブランド・Ange(アンジュ)の新作となる予定の、王冠をかたどったふたつの指輪。
 メンズ製品はブラックカラーのシルバーリングで、中央にブルーサファイアがセットされている。対となるレディースのリングは、ピンクゴールドにピンクサファイア。
 Angeはシンプルな形の製品が主流なので、こういう特徴のあるデザインは珍しい。

征士(せいじ)、どうだい? 自分の企画した製品が形になるというのは」

「そうですね……『他にはないペアアクセサリーが欲しい』という、ターゲットの新たなニーズをよく捉えた製品だと思います。販促方法は従来と変えてみてはどうかと」

 自分の意見を述べると、父は「やれやれ」と頭を振った。

「ビジネス的な視点は大事だ。でも、今聞いたのは、実際に製品を作ってみた感想だよ。私は早く、このリングを身に着けて喜ぶカップルを見てみたいね」

「そうですか」

「内側の刻印サンプルもいい字体だね。この『Bonne(ボンヌ) Chance(シャンス)』って、『あなたの幸運を祈る』って意味だろう? 征士もなかなか良いセンスをしているよ」

「はあ……」

 その言葉を刻印した理由は特にない。Angeがフランス語だから、同じ言語の文章で統一した方が良いかと思っただけだ。
 ファッションへの興味の欠如。
 どうやら俺は、アパレル企業の経営には向いていないらしい。
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