エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 MIDOU本社を後にした俺は、軽い昼食を取ってから店舗視察に出向いた。今日はMIDOU系列ブランドのGâteau au Chocolat(ガトーショコラ)と、その競合店を見て回る予定だ。
 肩から下げたトートバッグの中には、さっきチェックしたばかりのサンプルの指輪が入っている。

「このリングは征士にあげよう。意中の女性にでもプレゼントしたらどうだい?」

 ついさっき、父はからかうように笑ってペアリングを差し出した。

「俺にそんな女性はいませんよ。それに、発売前のサンプルを部外者に渡してはいけないでしょう」

「別に構わないよ。そのリングも、誰かに着けてもらった方が幸せだろうし」

 いつか俺も、父のようにファッションに対する情熱を持つことが出来るのだろうか。
 電車で渋谷に向かいながらそんなことを考えていると、幼馴染の(あおい)からスマホにメッセージが届いた。

『こんにちは、征士。ビッグニュースよ! 私ね、来年イタリアへ留学することになったの! 頑張ってデザインを学んでくるわね!』

 仲の良い友人である彼女もまた、ファッションへの深い愛情を持っている。中でもジュエリーデザインに興味を持ち、積極的に学びに行こうとしている。葵の父親は有名なジュエリーショップを経営しているから、後継ぎとしても申し分ないだろう。
 俺の口から自然とため息が漏れた。葵には悪いが、密かに自分と比べてしまっているのだ。
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