エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
 MIDOUの本社ビルには社員専用のカフェテリアがあって、お洒落なランチを格安で食べることが出来る。
 今日は沙希と、同じ課の三年先輩の笹下(ささした)円香(まどか)さんと一緒にランチ中。

「あ、このドレッシング美味しい」

 サラダがメインのヘルシーランチに舌鼓を打つ私をよそに、沙希はイケメン課長の赴任に浮ついている。

「ねぇねぇ、新しい課長、かなりハイレベルですよね? 仕事もデキそうだし、あの見た目だし。女子社員の争奪戦が始まりそう!」

 そんな沙希の言葉に、円香さんがツッコミを入れる。

「何言ってるの、沙希ちゃん。争奪戦なんて起きないわよ。あの課長は、私たちの手の届かない存在なんだから」

「え〜? まあ、その辺の女なんて相手にしなさそうな雰囲気ですけど。でも、可能性はゼロじゃないでしょう?」

 食い下がる沙希に、円香さんはため息を吐いた。

「沙希ちゃん、まだ気付いてないの?」

「何がですか?」

「課長の名前。御堂征士さんは、このMIDOUグループの社長の息子さんよ。いわゆる御曹司ってやつ」

「えっ!?」

 円香さんの言葉に、沙希だけでなく私も驚いた。
 知らなかった……確かに御堂姓だけど。
 MIDOUグループは大企業だから、本社勤務の私でも、御堂社長には滅多にお目にかかれない。雲の上の存在だ。
 そんな社長の息子さん。確かに、平社員の私たちにはふさわしくないよね。
 円香さんは人差し指を振りながら説明を続ける。

「御堂課長は将来的に社長の座を継ぐみたい。今までは、勉強も兼ねて外資のアパレル企業に勤めていたそうよ」

 円香さんの告げたアメリカの企業は、世界的に有名なカジュアルファッションのブランドを持っている。
 沙希が「あーあ」とがっかりした声を出した。

「ハイスペ御曹司かぁ。そういう人は、どっかの美人なご令嬢と結婚しそうですよね。狙うだけ時間のムダだわ。観賞用イケメンとして、目の保養にしようっと」

 そうなるよね……じゃあ私、そんなすごい人に指輪を探させちゃったってこと?
 朝礼に遅れて来たのも、一緒に探し物をしていたせいで、時間が押しちゃったからかもしれないよね。
 そのことに気付き、ひとりでこっそりと落ち込む。
 今朝の出来事は、誰にも話せそうになかった。
< 8 / 108 >

この作品をシェア

pagetop