エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
「お礼といっては何だが、これを君に」

「えっ、これは?」

「貰ってくれると嬉しい」

 Angeの小さなショッパーを受け取った少女は、中から紙製のリングケースを取り出した。
 ケースの蓋を開けた彼女の瞳がリングを捉え、煌めく。

「わあ、可愛い!」

 満面の笑みを見せてくれた少女を見て、俺はようやく、ファッションを仕事にする喜びを知った。
 彼女は嬉しそうにリングを見つめていたが、やがて、我に返ったようにパッと顔を上げた。

「いえいえ、こんな高そうな指輪、受け取れませんよ! ……これ、誰かにあげるために買ったんじゃないですか?」

 おずおずと尋ねる少女に苦笑する。それもそうか。突然、見知らぬ男性から女性向けのリングを渡されたのだから。

「いや、違う。諸事情で俺が持っているだけで、別に誰かに贈る物ではないんだ。まあ、言ってみればサンプル品だな。だから、君が持っていても何ら問題はない」

 と、公園の入り口に年配の男性がやって来るのが見えた。「ノア」と少女を呼んでいる。彼女の父親のようだ。

「君が今言ったことは、ずっと覚えているといい。俺も、君の言葉を忘れない」

 俺はベンチから立ち上がると、晴れ晴れとした気持ちでその場を後にした。
 きっとこれからの自分は、ファッションに真摯に向き合えるだろう。


 十一年経った今も、君がくれた言葉と笑顔は俺の胸に焼き付いている。
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