エリート御曹司の溺愛に甘く蕩かされました
「征士さん」

 私は征士さんに近寄ると、彼の手を取った。

「乃愛?」

 戸惑う彼に構わず、その大きくて頼りがいのある手をぎゅっと握る。温かさが心地良かった。

「私、あなたに触れられるのは嫌じゃないんです。むしろ、心が満たされて幸せな気持ちになります。だから……」

 私は恥ずかしい気持ちを何とか抑えると、征士さんの目を見てしっかりと伝えた。

「また、以前のように、征士さんとキスしたいです。あなたが望むのなら、その先も」

 すると征士さんは、私に握られていない方の手で顔を覆うと、ふうっと長いため息を吐いた。

「征士さん?」

 こんな大胆なことを言って、幻滅させちゃったかな……。
 おろおろしていると、征士さんが顔から手を離した。私を見る瞳は真剣で、思わず魅入ってしまう。

「よっぽど俺は、乃愛を不安にさせていたようだな。君を大事にしようとする気持ちが、ことごとく裏目に出ていた」

 自省的にそう言うと、私の手を握り返す。そこに、さっきはなかった熱を感じた。

「俺は乃愛のためを思って、今まで軽いキスしかしなかった。だが、俺も男だから、本当は愛する人に触れたい。この意味が分かるか?」

 征士さんの本音に、私の心がきゅうっと音を立てる。
 初めてだから緊張もあるけれど……私だって、心を許せる相手と愛し合いたい。

「はい。私が長年持ち続けていた男性への恐怖を、征士さん、あなたが消してくれたんです。だから、どうか自分を責めないでください。私はあなたに感謝しているのだから」

 征士さんを見つめると、彼は表情を少し緩めて、「ありがとう」とお礼を言った。
 私の肩に、征士さんの腕が優しく回される。誘われるがままに、私は書斎の隣にある彼の寝室へと足を向けた。
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