ラスボスの夫に殺される悪役令嬢として転生したので、生き残ってみせる!と意気込んでいたらなぜか夫がデレ始めて戸惑っています
 キャロラインの転生前の推しは、何を隠そうレオだった。そのレオが、今まさにキャロラインの目の前にいて、キャロラインを心配している。
 人懐っこそうな垂れ目がちな瞳がキャロラインに向けられているという事実に、キャロラインの胸は今にも張り裂けそうだった。

 頭を打つ前の記憶もちゃんとあるので、別にレオと会話をするのが今回始めてというわけではない。だが、転生前の記憶を思い出した今、推しの存在を自覚した今となってはレオと話をするだけでも緊張してしまう。

「クローク様から話は聞きました。……ですが、まさかそんなに赤くなるほどとは思いませんでした。申し訳ありません。クローク様にかわってお詫び申しあげます」

 そう言って、レオは静かに頭をさげた。

「そんな……!レオは悪くないでしょう。私が、その、こんな風になってしまったから突然すぎてクローク様も無意識だったと思うの、きっと。だから大丈夫、気にしないで」

 眉を下げて少し微笑みながらそう言うと、レオは驚いたようにキャロラインを凝視する。

(うっ、推しに、見つめられてる……!無理!)

 思わず目をそらすと、レオはキャロラインの腕をそっと掴んだ。

「えっ?」
「治療しますよ。このままでは痛いでしょう」

 そう言って、片手をかざして治癒魔法をかけると、キャロラインの手首の痛みと赤みは瞬く間に消えていった。

(優しい……こういう、悪女キャロラインにさえ公平に対応する、誰にでも分け隔てなく気づかえるところが好き)

 しかも、あのクロークの側に長年付き添えるだけの技量と頭脳、強かさもあるのだ。推さないわけがない。

「あ、ありがとう……手間をとらせてごめんなさい」

 キャロラインが俯いたままそう言うと、レオはぽつり、と呟いた。

「……本当に別人みたいだな」
「え?」

 レオの呟きはキャロラインの耳には入らず、キャロラインは首をかしげた。

「なんでもありません。それでは、俺はこれで」

 そう言って一礼をすると、レオは部屋を出ていった。

(お、お、推しに手首を、手首を掴まれて、治癒魔法かけてもらっちゃった……!)

 心臓はバクバクとうるさいし、絶対に顔も赤くなっている。だが、レオは夫であるクロークの側近だ。側近に対してこんな風になるのはたぶんまずい。

(いや、これは恋とかじゃないの、推しなの!憧れなの!!)

 煩悩を振り払うかのように、キャロラインはぶんぶんと首を大きくふった。

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