ラスボスの夫に殺される悪役令嬢として転生したので、生き残ってみせる!と意気込んでいたらなぜか夫がデレ始めて戸惑っています



 社交パーティー当日。クロークは礼服に身を纏い、応接間でキャロラインを待っていた。

(頭を打つ前はかなりの派手好きだったが、今は果たしてどんなドレスを選ぶだろうか。もしも俺たちを騙そうとしているのであれば、せっかくの社交の場に派手なドレスを選べなくて悔しがっているかもしれないな)

 ふん、と椅子に座りながらそんなことを考えていると、応接間のドアがノックされる。

「キャロライン様のお支度が整いました」
「ああ、入れ」

 ドアが開き、キャロラインが部屋に入ってくる。その姿を見て、クロークは目を見張った。

(あのドレスは……)

 キャロラインが身に纏っているのは、紺色の生地に翡翠色の細かい宝石が散りばめられた刺繍が施されたドレスだった。それは、キャロラインとクロークの結婚が決まった当初、クロークがキャロラインへ送ったドレスだ。紺と翡翠色、クロークの瞳の色であり、クロークにしてみれば呪われた瞳の色として嫌味を込めて送ったドレスだったし、当時のキャロラインは失礼にも程があると大層怒っていたものだ。

「どうしてそのドレスを……」
「えっと、クローゼットの中にあるドレスはどれもこれも派手なものばかりだったので。一番控えめそうなものを、と思って着てみたのですが……似合いませんでしょうか?」

 申し訳なさそうにキャロラインが言うと、クロークは目を見開いて絶句する。

「とてもお似合いですよ。ね、クローク様」

 レオが咄嗟に助け舟を出すと、クロークはハッとしてすぐにキャロラインから視線を外す。

「あ、ああ。問題ない」
「それならよかったです」

 ホッとしたように胸を撫で下ろしクロークに微笑みかけるキャロラインを見て、クロークはなぜか胸の中にこそばゆさを感じた。

(は?なんだ、この感情は)

 クロークは一瞬顔を顰めるが、すぐにいつもの無表情に戻り、応接間から出ようとする。

「支度が済んだなら行こう」
「は、はい……っきゃ!」

 慌ててクロークの後をついて行こうとするキャロラインが、思わずツンのめって倒れそうになる。既のところでレオがキャロラインを受け止めた。

「大丈夫ですか。キャロライン様」
「う、あ、えっ、あ、はい!だ、大丈夫です!ごめんなさい!」

 転生前、最推しと崇めていたレオに抱き止められたことでキャロラインは顔を真っ赤にし、すぐに体を離す。そんな二人の様子を見て、クロークはまた胸の中によくわからない、モヤモヤしたものを感じて顔を顰めた。

(なんなんだ、一体)
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