ラスボスの夫に殺される悪役令嬢として転生したので、生き残ってみせる!と意気込んでいたらなぜか夫がデレ始めて戸惑っています
「ファルガディア卿、そのようなことを言うのはクローク様に対して失礼です、おやめください」

 キャロラインが毅然とした態度でそう言うと、ルーベルは目を丸くして口を開く。

「おやおや、悪女と名高いあなたが、まさかレギウス卿を庇うようなことを言うなんて。頭を打って本当におかしくなられてしまったようだ」
「……そう、ですね。頭を打ってから私は、今までの私が本当に酷くあさましい人間だと気がつきました。皆さんにすぐに理解してもらえるなどとは思っていません。ですが、私は今までのような私ではなく、真っ当な公爵夫人として生きていきたいと思っています。ですので、クローク様を侮辱するような方とは申し訳ありませんが距離を置かせていただきたいと思います」

 そう言って、キャロラインは静かにお辞儀をした。その姿に、ルーベルもクロークも、キャロラインたちを見ていた周囲の貴族たちも驚いている。

「……はっ!距離を置く?勘違いしないでいただきたい。色目を使ってきていたのは夫人、あなたの方ですよ?レギウス卿との婚約者時代から俺にホイホイと近づいて来ていたのはあなただ。別に今更あなたが距離を置きたいと言おうが俺には関係ありませんね。むしろあなたのような毒婦など、こちらが勘弁願いたい」

 さげずむような瞳でキャロラインを見下ろし、ルーベルは薄ら笑いを浮かべてそう言った。周囲の冷ややかかつまるでゴミを見るかのような目がキャロラインへ向けられる。

(わかってる、こうなることはわかってるの。だって、頭を打つ前とはいえ自分が招いたことだもの)

 キャロラインはうつむきながらドレスをぎゅっと握り締める。言い返すことも、悲しみ泣くことも許されない状況を必死に耐えようとしていた。だが、フワッと何かがキャロラインの肩にかかる。

(え?)

 驚いて顔を上げると、クロークがキャロラインの肩を抱いて周囲に冷ややかな視線を向けていた。

「確かに、毒婦だと言われても仕方のないような女だ。だが、それは頭を打つ前までの話。今のキャロラインにそのような言葉は似合わないし、何よりもそのような言葉と蔑むような視線を向けることは俺が許さない」

 そう言って、クロークはルーベルを睨みつけた。その視線はいつも以上に相手を凍り付かせるかのような恐ろしいもので、ルーベルだけでなく周囲の貴族たちまで震え上がらせる。近くに控えていたレオだけは、うっすらと満足げに微笑みを浮かべていた。

「ここにいても不愉快になるだけだな。今日はもう失礼するとしよう」
「えっ、クローク様、よろしいのですか?えっ」

 戸惑うキャロラインの肩を引いて、クロークは広場から立ち去ろうとする。レオは周囲の貴族たちへ深々とお辞儀をしてクロークたちの後を追った。

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