ラスボスの夫に殺される悪役令嬢として転生したので、生き残ってみせる!と意気込んでいたらなぜか夫がデレ始めて戸惑っています
「兄上、そちらの御令嬢とは懇意にしてらっしゃるのですか」

 クロークがキャロラインの肩を抱いたまま、感情の乗らない声でトリスタンに聞く。

「ああ、マリアのこと?さっきバルコニーで出会って少し話をしたんだけど、とても聡明で心の綺麗な御令嬢なんだ。これからもっと仲良くなりたいと思っているよ。クロークもマリアのことが気になるのか?」
「いや、全く。俺が気になるのはキャロラインだけですね」

 バッサリと言い切るクロークを、キャロラインもトリスタンもマリアも唖然として見つめていた。キャロラインはハッとしてから、トリスタンたちへ小さくお辞儀をしてクロークを人気(ひとけ)の少ない壁側へ連れ込む。

「どうした?」
「どうした、じゃないですよ!マリアのこと自分から聞いておいてあんな風に言うなんて何考えてるんですか!」
「別に。ただ聞いておいた方がいいのかと思って聞いただけだ。それに、俺が興味があるのはキャロライン、君だけだとマリアにも兄上にもわからせておいた方がいいだろう。それとも何か不都合でも?」

 クロークはジトっとした瞳でキャロラインのことを見つめる。

「不都合は何もないですけど……」
「君の方こそ、兄上のことを随分と気に入っていたようだが、やはり好きになったのか?」
「なっ、別に好きになってませんよ!ただやっぱり美しい方だなぁと思っただけで……」
「ふうん、本当にそれだけか?」
「それだけです!もう、今日のクローク様はなんだか意地が悪いですよ」

 顔を赤くして抗議するキャロラインの耳元に、クロークはそっと顔を近づけた。

「俺はマリアを好きになることはないし、君がマリアをいじめることもない。よって俺は君を殺すことはしない。だが、君が兄上に惚れて俺の側から離れるようなことがあれば……俺は嫉妬に駆られて君を殺してしまうかもしれないな」

 低く内臓に直に伝わるような声でクロークが耳元に囁く。キャロラインは思わずゾッとしてクロークを見ると、クロークは妖艶に微笑んでいた。

(こ、この人、本気だわ……!)
 
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