俺の彼女は高校教師
 まだまだ朝も10時。 休みの日にこんなに朝早くから呼び出すんだもんなあ。
次の魚を狙っている香澄を見詰めながら俺はぼんやりとしている。 「さあ釣るぞーーーー!」
「馬鹿。 大声出したら魚なんて釣れねえぞ。」 「また馬鹿にしたなあ? 許さないんだから。」
「だったらまともに釣ってみろ。」 「いいわよ。 大きいのを釣ってやるから。」
そう言い張って5分が過ぎた頃、、、。 「なんか重たいのが引っかかってる。」
懸命に竿を上げようとしている香澄、、、。 それでもなんだか釣れそうにないらしい。
 「弘明君も手伝ってよ。」 泣きそうな顔で俺に訴えてくるから竿を持ってみた。
「意外と重たいなあ。 何を釣ったんだ?」 「分かんないわよ。 上がるまでは。」
 二人で力を合わせて引っ張り上げてみると、、、。 「なあんだ。 ブロックじゃねえか。」
上がってきた物を見て俺は爆笑してしまった。 「そんなに笑わないでよ。 まったく、、、。」
「ごめんごめん。 ブロックが釣れるとは思わなかったんだ。」 「意地悪。」
「さあさあ頑張れ。 何か美味しい魚を釣ってくれよ。 香澄ちゃん。」 「きもいから香澄ちゃんなんて呼ばないで。」
「頑張れ頑張れ。 メス豚ちゃん。」 「誰がメス豚よ?」
「お前だよ。 お前しか居ないだろう?」 「いいわ。 びっくりするような魚を釣ってやるんだから。」
 そこで香澄は持ってきたハマグリを投げ込んでから針を投げました。 その眼がなぜか怖いんですけど、、、。
しばらくして「やったあ!」っていう声が、、、。 見ているとバタバタと暴れる魚が居る。
「よし、そこだ!」 香澄と一緒に竿を引っ張り上げる。
釣れたのを見てまたまたびっくり。 元気のいい河豚じゃあーーーーりませんか。
 「やったな。 香澄。」 「うん。 今年は最高に嬉しい。」
早速クーラーボックスに入れて魚屋に戻りましょうか。 お父さんは俎板の上で魚を捌いている最中です。
 「ただいまーーーーー。」 意気揚々と帰ってきた香澄を見たお母さんはポカンとした顔をしてます。
「何が有ったの?」 俺を見付けて心配そうに聞いてきた。
「実はね、、、。」 耳打ちすると「えーーーーーーーーーーーー!」って頓狂な声を挙げるもんだからお父さんまでびっくりして俺を見ました。
 そんなお父さんの前に香澄がクーラーボックスを置きまして、、、。 「お土産よ。」
「何だ? またカサゴか?」 「今年はすごいわよ。」
「開けてびっくり、見てびっくりですよ。」 「そうなの?」
心配そうなお母さんがボックスを開けた瞬間、目が点になりました。 「河豚じゃない。 釣れたのね?」
「そうよ。 釣ったの。」 「じゃあ昼は河豚三昧になるなあ。 いい?」
「かまいません。」 「じゃあ、、、。」
 それでお父さんは包丁を持ち換えて河豚を捌いてくれました。 美味しそうだなあ。
「鰭は酒に浸けるから取っといてくれよ。」 「分かった。」
 いやいや河豚の刺身と煮付けですわ。 豪華ですなあ。
香澄も今日ばかりは満足そうで、、、? と思ったら、、、?
 「弘明君ねえ、ずっと私を虐めるのよ。」 「あんただって弘明君をいい加減虐めてるじゃない。」
「でもでもそれよりひどいの。」 「お互い様でしょう? 小学校からの仲良しなんだから我慢しなさい。」
「そんなこと言ったって、、、。」 「我慢できないんなら呼ばないことね。」
お母さんが澄ました顔で言うもんだからさすがの香澄も黙るしかないみたい。
 「弘明君、お食事。」 「何だよ、気持ち悪いなあ。」
「たまにはお淑やかに決めてみようかと思って。」 「30年早いわ。」
「何ですって? 30年早いって?」 「ほら、元に戻った。」
「香澄、やられっぱなしだなあ。 もうちっと頭を使えよ。」 お父さんも(まいったな)って顔をしてます。
 今日の河豚はなかなかいいようで身もしっかりしてます。 刺身にしても美味しいですねえ。
香澄も黙って煮付けを食べてます。 一言も喋らないとこんなに可愛いのか。
 いつもと違う香澄に俺はドキッとしたようだ。 美和のビキニ以来かも?

 夕方、バス停まで香澄が送りに出てきた。 「珍しいなあ。」
「だって、呼んだんならちゃんと送りなさいってお母さんに怒られちゃって、、、。」 「今から大変ですなあ。 お嬢様は。」
「だからお嬢様はやめてって言ってるでしょう? 分からないかなあ?」 「分かんない分かんない。 俺は馬鹿だから。」
「それって嫌味?」 「じゃなかったら何だよ?」
「私 泣いちゃうもん。 えーーーーーん。」 「始まった。 これやりだすと長いんだよなあ。」
「何か言いました?」 「心配するな。 これやりだすと長いんだって言っただけだから。」
「ひどーーーいひどーーーーい。 泣いてやるーーーーー。」 「勝手に泣いてろ。。 馬鹿。」
「うわーーー、また私を馬鹿にしたなあ。」 「いつものことじゃねえか。」
「今日くらいは優しくしてよ。」 「お前もな。」
「するからするから。 だから優しくして。」 そう言って飛び込んできた時にバスが行ってしまった。
 「ほら見ろ。 乗り遅れたじゃねえか。」 「やったあ。 あと20分も一緒に居られるわーーーー。」
「やってらんねえなあ。 お前とは。」 「何ですって? やってられねえ? どういう意味よ?」
「そういう意味よ。」 「そういう意味よってどういう意味よ?」
「そういう意味よってどういう意味よってそういう意味よ。」 「そういう意味よってどういう意味よってそういう意味よってどういう意味よ?」
「そういう意味よ。」 「だからどういう意味よって聞いてるの。 分かんないかなあ?」
「だからそういう意味よって言ってんだ。 分かんないかなあ?」 「分かんない分かんない。 私は馬鹿だから。」
「はい終了。」 「冷たいなあ。 もっと優しくしてよ。」
「お前がな。」 「何で私なのよ?」
「ほら始まった。 お嬢様はこれだからなあ。」 「いいんだもん。 弘明君なんか知らないもん。」
 香澄はいつになく不機嫌な顔で帰っていった。 「とは言うけど10分もすればメールしてくるんだぜ。」
と思っているとやっぱりメールしてきた。

 『今日の河豚 美味しかったねえ。』

 (やっぱりこいつ、お嬢様だぜ。 コロコロコロコロ変わるんだからなあ。) 娘心と秋の空とは言うけれど、これじゃあリトマス紙よりも早いぜ。
家に帰ってもメールは続くのですよ。 飽きないやつだなあ。
翌五日は金曜日。 これまた何もやることは有りませんでして朝からゴロゴロしてます。
律子たちはどっかに遊びに行くって言ってたなあ。 勝手に行ってこい。
このままじゃあ日曜日も何の予定も入らないな たぶん。 美和に聞いてみるか。

 『日曜日ってさあ、本当に行ってもいいの? 今のところ、予定らしい予定は入らないから。』

 『いいわよ。 またのんびりして行ってよ。』

 やっぱりか。 美和もこの連休は暇なんだろうなあ。 音楽のあの先生は国内旅行するって言ってたけど。
昼になるのにボーっとしてて起きるのも嫌になるくらい。 それでも飯だけは食っておかないとね。
 あの母上が作ってくれたご飯はテーブルの上に置いてあります。 でっかいお椀にご飯が山盛り。
(昨日の昼飯みたいだな。) 香澄の家でもでっかい丼に山盛りのご飯を出されたんだよ。
「男は食って食って食いまくるんだ。 食べ過ぎるくらいがちょうどいいんだぞ。」なんて訳の分からんことをお父さんが言うもんだから香澄もはしゃいでしまって、、、。
 ついでにおまけに「未来のご主人なんだからお前が世話しなさい。」なんて香澄に言うもんだからその気になっちゃって、、、。
確かにこれまでは仲も良かったよ。 でもこの先はどうなるか分かんねえじゃないか。
なあ、美和先生。 そう思わない?

 昼になり、部屋の窓を開け放してみるとまあまあ気持ちのいい風が吹き込んでくること。 ずーーーーーーっと吹かれていたいなあ。
なんて香澄が考えそうなことを考えてみたりする。 これだからあいつが引っ付いてくるんだってのに。

 『日曜日さあ、どっかに出掛けない? たまにはデートしたいなあなんて思うんだけど。💛💛💛』

 不意に美和がメールしてきた。 しかもハートマークが三つも付いてる。
(おいおいおい、こんなメールを見せられちゃあ噴火しちゃうぞ。 どうするよ?) おったまげるしかない美和のラブメールだ。
〈ドキドキラブメール〉ってのはこういうのを言うのかなあ? それにしてもやり過ぎだぜ おい。

 『いいけど何処に行くの?』

 『フラッと山にでも行こうかと思って。』

 (山か。 それなら誰にも会わねえな。 いいかも。) そう思って返信した。
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