俺の彼女は高校教師
 このまま12年もくっ付いてるのかなあ? そんなの嫌だぜ 俺は。
でも香澄は諦めきれない顔で俺を追い掛けてくる。 飽きないやつだなあ。
 教室を出て不意に左へ曲がってやる。 そしたら飛び出してきた香澄が英語の佐々岡先生に突っ込んでいった。
「ワーオ、何するんだよ?」 「あ、あ、あ、あ、あ、ごめんなさーーーい。」
「ちょっと待て。 謝って済むようなことじゃないぞ。」 佐々岡先生はものすごい顔で香澄を睨んでいる。
「でもでもでも、、、、。」 「でもじゃない。 教室から何で飛び出してくるんだ? 危ないだろう?」
佐々岡先生って曲がったことが大大大大嫌いなんです。 だから怒り出すと誰も止められません。
5分経ってもお説教はまだまだ続いてます。 香澄はもじもじしながら我慢してます。
 「佐々岡先生、授業が、、、。」 保健体育の成宮先生が止めに入りました。
やっとお説教から逃げられた香澄は猛スピードでトイレへ、、、。 我慢してたんだって。

 放課後になり、スマホのメールを確認していると香澄が飛んできた。 「弘明君のせいだからね。 私が佐々岡先生に怒られたのは。」
「うっせえなあ。 最中で我慢しろ。」 「そんなんじゃなくて、、、。」
「また始まったわ。 あの二人。」 「いいじゃん。 将来の彼氏と彼女なんだから。」
「そうは見えないけどなあ。」 「いいの。 意表を突いたカップルほど長続きするんだから。」
 律子もいい加減に見飽きたようですが、、、。 毎日毎日ぼくらは鉄板に、、、、、。
学校から駅までの道は差し詰め香澄の処刑場みたいなもの。 いつもいつもここで俺たちはバトルを繰り返してきた。
ほんとに飽きないんだからなあ。
 中学生の時もそうだったなあ。 学校を出るとどちらからともなくバトルを始める。
それが魚屋の前まで続くんだ。 母さんたちはそれを我が家の風物詩のように見ていたっけなあ。 まあ口喧嘩は仲のいい証拠だった。
 おまけに4年生までは(友達だから)って風呂にも一緒に入っていた。 何とも思わなかったな。
そんな香澄も胸が膨らんできて女らしく見えてきた時、俺は(何か変わってきたな。)って思ったんだ。 女の子が女の人に変わる瞬間だったのかも。
 でもそれが落ち着いたらいつものように口喧嘩を始めた。 追いかけっこはこれまでよりも派手になった。
どっかのバラエティー番組の企画じゃないかって思うくらいにね。 それを律子たちは毎日キャーキャー言いながら見てたんだ。
 そしてそのまま高校生になった。 中学生のクラスがそのまま高校生になったんだ。
変わったのは学校と先生だけ。 でもその学校は美和の母校だった。
 その美和はバレー部の大会でしばらく居ない。 あの顔をしばらくは拝めないんだ。
話そうとしても学校には居ないんだ。 なんか放り出された気分だよなあ。

 そんなことを考えながらいつものように駅までやってきた。 と、香澄は反対側のホームへ行ってしまった。
(何をするんだろう?) ぼんやり見ているとその端っこの出入り口から出て行くのが見えた。
「何だ、また本屋に寄るのか。 飽きないもんだなあ。」 今日は一人で電車に乗る。
席に座って窓にもたれている。 日差しが暖かい。
またまた寝ちまいそうな嫌な予感。 でもまあ今日は客も多いしのんびり寝てられないぞ。
 電車区を通り過ぎて電車は走っていく。 左側はビルが並んでいるのに右側は何も無い。
こんなんでいいのかなあ? 俺がじいさんになる頃にはもっとひどいことになってんな 多分。
 じいさんか、、、となれば香澄もばあさんだよなあ。 「弘明君や。 若い頃からずいぶんと私を虐めてくれたよなあ。 あの世で仕返ししたるからそのつもりでなあ。」
あの顔で迫ってくるのかなあ? 怖いようなきもいような、、、。
 その頃、律子たちはどうしてるんだろう? あいつはヨーロッパに移住するみたいなことを言ってたよな 確か。
「私ね、フランクフルトに引っ越したのよ。 いいでしょう?」 「だから何? 俺はソーセージが食えるだけで十分だよ。」
「まあひどい。 弘明君には世界的な感覚が無いのね?」 「美味い物が食えたらそれだけでいいよ。」
「まあまあ、呆れた。 ロマンもドリームも無いなんて、、、。」 「お前と違うからな。 俺は。」
 そんなことをテレビ電話で言い合ってるのかなあ? どうなんだろう?
 その頃ってさあ、美和も相当おばあちゃんになってんだよな? 耐えられるかなあ?
 「私さあ、明日からデーサービスに通うわ。」 「何だい、いきなり?」
「だってやることが無くなったし暇じゃない。」 「だからってデーサービスは、、、。」
「近所のおばあちゃんたちも集まってるのよ。 行かないと損だわ。」 「行かなくても損しないと思うけどなあ、俺は。」
「あなたはあなた。 私は私。 そう決めたわよね?」 「うっせえなあ。 好きにしろよ。」
「ほら怒った。 そういう所は嫌いなのよ 私。」 これじゃあ毎日喧嘩だぜ。
 そうやっていろいろと考えていたら陸橋が見えてきた。 なんまんだぶ、なんまんだぶ、、、。
「さて降りるか。 腹減ったなあ。」 駅を出ていつもの店でパンダ焼きを買う。
それを食べながらブラブラと歩く。 もう5月なんだなあ。
 商店街をパトカーが通り過ぎていった。 「何か有ったのかな?」
辺りを見回してみるけど何か起きたような証拠も無い。 (もしかしてトイレでも探してるのか?)
普段、そんなに人通りが有るわけでもないから静か過ぎるくらいに静かなんだよなあ。 40年前とはえらい違いだぜ。
あの当時は小さな花火大会もやってたって言うからなあ。 今じゃ、うるさいだの汚いだの文句ばかり言われてやりたいこともやれないでいる人たちが多いのに、、、。
そもそもさあ、みんな揃って文句言い過ぎなんだよ。 あれがダメ、これがダメって。
ダメって言うならお前がやってみろよ。 それでうまくいったら褒めてやるからさあ。
こう言うと誰もやりたがらない。 つまりは言うだけ詐欺ってやつね。
無駄なんだよ それじゃあ。 文句を言うくらいならやってみせろや。
ってまた正論を返せない大人が多過ぎる。 言われたら言われっぱなし。
だからクレーマーはのぼせ上る。 お前らのせいなんだぞ。

 「ただいま。」 玄関を開けて中に入る。 不思議と誰も居ない。
姉ちゃんは九州へツアーで出掛けるって言ってたし父さんも出張だし、母ちゃんは? まあいいか。
 誰も居ない食堂でコーヒーを飲みながらスマホを開いてみる。

 『ベロベロバー‼ びっくりした?』

 『アホか。 そんなんでびっくりするわけ無いだろう?』

 『アホとは何よ? アホとは?』

 「うるせえなあ。 ちっとは他のやつにくっ付いたらどうなんだ?』

 『くっ付いてもいいの? じゃあ香澄ちゃーーーーーーんって泣かないでね。』

 『お前一人居なくなっても何とも思わないけどなあ。』

 『ひどーーーーーーい。 ひど過ぎるわーーーー。 死んでやるーーーー。』

 『とか言いながら釣り堀で泳いでるんだろう?』

 「あのねえ、私は秋刀魚じゃないのよ。』

 「うわ、秋刀魚を馬鹿にしてら、、、。』

 『弘明君がいけないのよ。 私を馬鹿にするから。』

 「馬鹿にされたからって秋刀魚を馬鹿にしていいって法律は有りませんけどねえ。』

 『魚屋には有るのよ。 そんな法律が。』

 「ふーん。 変なの。』

 一度捉まるとなかなかやめられないのが香澄なんだよなあ。 あの顔で次の日まで文句を言ってくるんだから。
ああ堪んねえ。


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