俺の彼女は高校教師

第5章 もうすぐ夏。

 月曜日、俺たちはみんな揃って講堂に集められていた。 バレー部が優勝して帰ってきたからだ。
「えー、では只今から先日行われました高校女子バレー県大会の結果報告会を始めます。 バレー部の皆さんは整列してください。」
心成しか教頭の顔がにやけて見えるのは何故なんだろう? 俺は美和よりそっちのほうが気になってしまっている。
 3年のキャプテン 羽山里美が挨拶に立った。 ユニフォーム姿で前から見るのは初めてかもしれない。
「今回の県大会は苦戦を予想していましたが何とか勝ち上がることが出来ました。 これも全て皆さんの応援のおかげです。」
里美にとっては最後の県大会だ。 それだけに思いも強かったらしい。
 後で聞いたんだけど県大会の最中にばあちゃんが亡くなったそうで、、、。 優勝を決めた後でそのことを聞いたんだって。
俺だったらたぶん無理だわ。 ここには立てなかったかもしれない。
 考え込んでいると美和が前に立った。 美和もユニフォーム姿だ。
「今回、私は顧問として県大会に行かせていただきました。 在校生だった頃は一回戦を突破するのがやっとでなんとかしたいという思いでいっぱいでした。」
 美和の眼に涙が溢れている。 思わず俺も貰い泣きしてしまった。
隣を見るとなんとまあ香澄撫で貰い泣きしているじゃあーりませんか。 (こいつもこういう神経を持ってたんだなあ。)
意外な発見までさせてもらって報告会は終わった。 「さあて次は2時間目だなあ。」
「そうそう。 でもさあ音楽だよ。」 「えーーー? そうなの? ゆっくりしてらんないじゃん。」
「噴火する前に行っちまおうぜ。」 「そうだそうだ。 ところで香澄は?」
「あれ? 見ないなあ。」 「どっかに隠れてるんじゃ?」
「そんなまさか、、、。」 音楽室に急ぎながら香澄を探すのでありますよ。
 「何処に行ったんだ?」 「居ないよ。」
「おかしいなあ。 講堂には居たのに、、、。」 律子が職員室のほうに目をやった時、、、、。
「居た‼ あそこに居た‼」 「おいおい、そんな大声で、、、。」
「だってみんなで心配してたんだもん。 しゃあないじゃない。」 「でもあいつ、あそこで何をしてるんだ?」
「さあねえ。 もしかして高橋先生にプロポーズでも?」 「アホな、、、。」
「分かんないわよ。 女同士で惚れちゃうことだって有るんだし、香澄は高橋先生に相当に妬いてたからねえ。」 「妬いてたって?」
「そうよ。 弘明君を取られたっていつも言ってたから。」 「あいつがねえ。」
 別に俺にそんな感覚は無いんだけどなあ。 兎にも角にも香澄を連れ戻さないと、、、。
職員室の前でボーっとしている香澄に声を掛ける。 「どうしたんだよ?」
「いやいや、、、。」 「じゃないだろう? 次は音楽だぜ。」
「あっそうか。 行かなきゃ、、、。」 「何のんびりしてるんだよ?」
「いいじゃん。 たまには高橋先生をじっくりと拝みたいのよ。」 「は? 頭大丈夫?」
「頭は生まれる前から大丈夫ですわよ。 誰かと違ってねえ。」 「こら待て!」
「やだやだ。 授業に遅れちゃうもん。 待たないもん。」 「こらこら待て待て!」
「嫌だもん。 待たないもん。」 今日は今日で何だか変な追いかけっこをしてます。
 (あいつ、美和にいかれちまってるわ。 どうするんだよ? あんなんじゃあ、、、?) 香澄を追い掛けて突っ走っていると社会の山下先生が教室から出てきた。
「キャー!」 「こらこら、人にぶつかっておいてキャーは無いだろう?」
「またやってやんの。 ドジでのろまな香澄さん。」 「お前もお前だ。 囃し立てるのはいいけど手加減しろ。」
「すいません。」 山下先生が行ってしまうと香澄が飛び付いてきた。
「怒られてやんの。 ざま見なさいよね。」 「お前が認知症になってるから悪いんだぞ。」
「いいじゃん。 高橋先生を拝んだって。」 「拝んだって何にも出てこねえぞ。」
「うわ、今度は高橋先生を馬鹿にしてるーーーー。 訴えてやるーーーー。」 「どうでもいいけど、どっかの売れてない政治家みたいなことやるなよ。 馬鹿。」
「もう。 馬鹿馬鹿うるさいなあ。」 「馬鹿だもん。 しゃあねえじゃん。」
 何や分らん突っ込み合いをしながら教室へ、、、。 もちろん、あのおばさん いやいや、あの先生は仁王様みたいな顔で噴火中。
「何分遅れたか分かってるの? 二人とも出て行きなさい。 居なくていいわ。」 「やーーい、二人して怒られてやんの。」
「あんたも同罪ね。 準備室でレコードの整理をしてなさい。」 「しょんぼり。」
 それなもんだから俺たちは二人揃って廊下でブラブラ、、、。 じゃなくて音楽室を見ながら羨ましそうな顔をしてます。
今日はレコード鑑賞をするとか言ってたんだっけ。 ビゼーだったかな、チャイコフスキーだったかな?
 ふと隣を見ると香澄はさっきから俺にくっ付いてブツブツ何か唱えてますなあ。 気味悪いな、こいつ。
いきなり陰陽師でも始めたのか? そう思いながらよく聞いてみると、、、。
 「高橋先生 写真を見せてもらったけどかっこいいじゃない。 私は好きだなあ。
スポーツできる女の人って憧れちゃうなあ。 一緒に居たいかも。」 目が何故か💛マークになってるんですけど、、、。
 授業が終わるまでそっとしておいて後で問い詰めてみよう。 何を白状するかなあ?
「私ね、高橋先生のこと 大好きなの。 一緒に居たいの。」なんて言い出さないよな? お前?

 授業が終わってみんなが出てくる前に俺たちは教室へ戻ってきた。 「お前、さっき何をブツブツ言ってたんだ?」
「女の子の秘密は誰にも喋りませーーーーーーん。」 「あっそう。 じゃあ美和に聞いてくるわ。」
「ちょちょちょ、それは待ってよ。」 「いいじゃん。 だってまだ美和には何にも喋ってないんだろう?」
「それはそうだけど、、、。」 「何? もしかしてお前、ラブレターでも書いたのか?」
「そんなことしてないわよ まだ。」 「まだ? これからするのか?」
「いや、その、あの、それは、、、。」 香澄が口籠ったところでみんなが帰ってきた。
 「やあやあお二人さん 仲悪いのによくもまあくっ付いてるなあ。」 「しょうがないわよ。 可愛がってくれって言うもんだから。」
「誰がそんなこと言うか。 お前なんかに。」 「また私を馬鹿にしたなあ。 許さないんだからーーーー。」
「また始まったわ。」 「やらせときましょうよ。 これをやりだすと長いんだから。」
「それもそうね。」 律子と小百合は今日も冷ややかな目で俺たちを見詰めております。
いつまでこんなことやってんだろう?

 昼休みになって図書館に行ってみると、、、。 司書室から美和の笑い声が聞こえてきた。
(あいつ、今日はここに居るのか。) 本を探しながらふと寂しくなる俺、、、。
と、そこへ香澄が入ってきた。 「あらあら弘明君も来てたのねえ?」
「いつものことですけど。」 「冷たいなあ。 もうちっと優しくしてよ。」
「これが性分なんでしょうがないんですわ。 お嬢様。」 「だからお嬢様はやめてって言ってるでしょう? 分かんないかなあ?」
「分かったら面白くないだろう?」 「分かってくれないと泣いちゃうぞーーーーー。」
「いいよ。」 俺がそう言ったら本当に泣き出した。
「しゃあねえなあ。 香澄様。」 「何よ? 意地悪。」
「お前のほうがもっと意地悪だけどなあ。 分かってねえだろう?」 「分かって堪るもんですか。」
「あっそう。 そんなことまで言うのね? あなた。」 「きもいなあ。 やめてよ。」
「今泣いたカラスがもう笑った。」 「カラスじゃないもん。 私人間だもん。」
「こらこら、小学生みたいな突っ込みするんじゃねえよ。」 「いいじゃん。 どうせ弘明君なんだし。」
「どうせって何だよ? どうせって?」 「ハハハ。 あなたはその程度なのよ。 進歩してないのねえ。」
「お前がな。」 「私は毎日進歩してますわよ。 お兄様。」
何か知らんが今日の香澄はいつもと違うぞ。 やけに突っ込みが速い。
何か有るんだろうなあ? そこに美和が入ってきた。
 「あら、お二人さん来てたの? 邪魔しちゃったかな?」 「いえいえ、とんでもない。」
香澄は美和を見て赤くなってる。 (こいつ、何かやる気だな?)
 俺が本に夢中になっていると香澄が美和の隣に座った。 「先生、、、。」
振り向いた美和の手に何かを渡している。 俺はまあ気にしないことにして本を読み進めている。
でもなんかドキドキしてるぞ。 やられちまったかな?




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