マリアンヌに私のすべてをあげる
私の名前を呼ぶのはマリアンヌ
『話って何……?』
『私…… 以前のままのレオナルド様がいいです……』
『えっ?』
『私に優しいことを言ったりしないで下さい。優しくしたりしないで下さい。優しくされれば、そのぶん傷つきやすくなってしまって辛いんです。今までの私だったら、レオナルド様が他の方とお二人でどこかへ行くお姿をお見かけしても後を追ったりしなかった。それなのに…… 前にも言いましたが、上手く感情をコントロール出来なくなってしまって困るんです』
ーーマリアンヌ……
『さっきのは本当に何もないから信じて欲しい!! それに……言いたいこと言って、したいことをするのはやめられない。自分の気持ちに正直にいてるだけだから』
『どうしてですか……? どうして私を苦しめるだけなのに…… そ、そんな嘘が言えるのです……』
潤んでいたマリアンヌの目から次々と涙がこぼれ落ちていく。
ーーまた泣かせてしまった……
もーー腹決めて言う!!
そのためにいんだから!!
マリアンヌに頭のおかしい奴だと思われるのはイヤすぎだけど……傷つけたまま、誤解されたままのほうがもっとイヤだ!!
『嘘はついてない。これから話すことは、マリアンヌが聞けば腹立つくらいにバカバカしくって、信じられない話だと思うけど…… 聞いて欲しい。目の前にいるこのレオナルドはマリアンヌの知ってるレオナルドじゃないんだッ!!!!』
『…………へ?』
ポカンとされちまってる……
そりゃあそうだろう。何言ってんだって思うよな。
『…… どういう意味ですか? 何を仰ってるのかがわかりません』
『このレオナルドは中身が別人なんだ……』
『…… な、中身が別人?』
『うん…… 朝目覚めたら、私はレオナルドの姿になってた。どうしてそうなったのかはわからない。この体の主であるレオナルドがどこにいるのかも、生きているのかも、もとに戻ってくるのかもわからない。何もわからないけど…… でも一つだけ確かなことは、今のこのレオナルドの中身は、こことは別の世界で生きてた須藤明日翔っていう名前の女なんだってこと!!』
『スドウアスカ…… 女……別の世界……そ、そんなことあるはず……』
『本当なんだ!! 私は明日翔って名で、女で、そして別の世界からきた!! 信じて欲しいって言っても難しいのはわかってる…… だけど誓って嘘偽りは言ってないッ!!』
『…………。』
マリアンヌ……何も言ってくれない。
そうだよな……信じてもらえるはずないよな。
どうしよう……隠してたほうがよかったのか?
けどそれじゃあマリアンヌを傷つけたままになるし。
『一つ…… お伺いしてもよろしいですか?』
良かった、喋ってくれた!!
『う、うん!! 何?』
ーー何言われんだろう……
『そのお話が本当だとして…… あなたがレオナルド様の中にいて、私と初めてお会いしたのはいつなのですか?』
『いつって…… 私とマリアンヌが初めて会ったのは…… 』
いつだっただろう……
レオナルドの姿になって、すぐマリアンヌと会ってるもんな。
ってことは……ここにきてからもう三ヶ月経ってるから……
『私が初めてマリアンヌと会ったのは三ヶ月前になるかな』
『三ヶ月前……』
ポツリと呟いたマリアンヌは、そのまま黙って何かを考え込みはじめた。
ーーどうしたんだろう?
変な事でも言ったのか?
いやさっきから私は変な事しか言ってないよな……
不安になりながらも喋りはじめるのを大人しく待っていると、
急になんかに気づいたかのように、ハッとした表情になったマリアンヌが私に尋ねる。
『もしかして…… 初めてお会いした時、私のそばかすを可愛いって仰いましたか?』
『うん。そのそばかす可愛いって言った』
『やはり…… そうですか……』
んっ?何を納得してんだろう。
『あなたのお話…… 信じますよ。だって、レオナルド様が私のそばかすを可愛いだなんて仰るはずないですもの。そんな方ではなかった…… 知っていたはずなのに。本当にレオナルド様ではないのですね……』
ーーマリアンヌ……信じてくれるんだ。
『騙すようなことしててごめん!! こんなバカげた話、誰に言っても信じてもらえないと思って……』
ーーほんとっバカげた話だよな。
『そうですね……。他の方がお聞きになっても信じてはもらえないでしょうね。けれど私は信じますよ。非常に驚いてはいますけど……そのようなことがあるのですね』
ーーだけどマリアンヌは私を信じてくれた。
『あの…… もしよろしければ…… 二人の時はアスカ様とお呼びしてもよろしいですか?』
明日翔様っ!!
サマなんか付けて呼ばれた日には動転してフリーズするわっ!!
『サマはイヤだなーー明日翔でいいよ。それに名前は呼ばなくてもいいから。二人の時以外に間違えて呼んでしまうかもしれないし』
そういや……この世界にきてから明日翔って自分の名前を言われたの初めてだよなぁ。なんか嬉しいかも。
『ですが私はそうお呼びしたいんです。気をつけますから…… お名前で呼んでもいいですか?』
『なんでそんなに私の名前を呼びたいの?』
『それは…… ここであなたの本当のお名前をお呼びしてあげられるのは、私一人しかいませんから。アスカ……とっても良い名ですねぇ』
マリアンヌ……やっぱすげーーいい子だ!!
『ありがとう。それなら明日翔って二人の時は呼んでもらってもいいかな?』
『はい。アスカさん!!』
『ハッハハハ。結局さん付けなのかっ』
まぁでもマリアンヌらしい呼び方だ。
なんだろう……久々に名前呼ばれたせいか、ドキッとしたな。