野いちご源氏物語 〇八 花宴(はなのえん)
 桜の宴(うたげ)の翌日には慰労(いろう)会(かい)が開かれた。正式な宴よりも堅(かた)苦しくなくておもしろい。しかし源氏(げんじ)の君(きみ)は、筝(そう)を弾きながら上(うわ)の空(そら)でいらっしゃる。
<こうしている間にも昨夜の姫君(ひめぎみ)は内裏(だいり)を出てしまうのでは>
 そうなればもう連絡の取りようがない。気の利く惟光(これみつ)や良清(よしきよ)に命じて見張りをさせておかれる。桐壺(きりつぼ)にお下がりになったところへふたりは参上した。
「たった今、弘徽殿の女御(にょうご)のお身内(みうち)らしい方々が、乗り物で出ていかれました」
 あぁ、しまったと激しく後悔(こうかい)なさる。
<五(ご)の君(きみ)か六(ろく)の君(きみ)なのか分からないままになってしまった。右大臣(うだいじん)に正直にご相談したら、正式な婿(むこ)扱いされてしまうだろう。まだどういう性格かも分からないのに、後戻りできない状況になるのは困る。かといってもう会えないのは残念だ。どうしたらよいだろう>
 悩んでぐずぐずと横になっていらっしゃる。
<若紫(わかむらさき)の君(きみ)は退屈(たいくつ)しているだろうな。私が何日も内裏にいるから、元気をなくしているはずだ>
 二条(にじょう)の院(いん)の幼い姫君のこともご心配だった。

 昨夜の姫君と交換なさった扇(おうぎ)には、朧月(おぼろづき)の絵が描かれている。平凡(へいぼん)だけれど、姫君のお気に入りらしく大切に使い慣らしてあった。「探し出そうとまでは思ってくださらないのね」とおっしゃった声がよみがえる。
「探し出そうにも、こんなにすぐに消えてしまっては」
 源氏の君はそう扇に書いて、ため息をおつきになった。
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