公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「いいえーこっちこそいつもお世話になってます」

 ルキ様スパルタだけど面倒見がいいんだよ? と苦笑したハルは話を元に戻す。

「カルロス殿下は圧倒的なまでに有利で"選ぶ側"なんだ」

 誰でも選べた。にも関わらず、彼は誰も婚約者として選ばなかった(・・・・・・)

「果たして、そんなカルロス殿下はただのロマンチストだろうか?」

 本当に運命の恋とやらに落ちたくて相手を探していた可能性も否定できないが、ハルが彼の今までの経歴を読み込んだとき感じた印象はむしろ逆だった。

「立場も盤石で時間があるなら、国にとっても自分自身にとっても尤も必要な相手を自らの目で見定める事ができる。そうして殿下が熟考を重ねて見極めた先で見初めた相手がシルちゃん、君だよ」

 つまりカルロスにとってシルヴィアはヒロイン枠確定であり代役を立てる事ができないのだ。

「……なんで、私なの?」

 シルヴィアとカルロスは彼が編入してくるまで会ったことはない。
 それにエステルに頼まれたから学園に馴染めるようにとサポートはしたが、特別好かれるような事をした覚えはない。
 なのに、どうして彼の目に止まってしまったのか? 憂を帯びた濃紺の瞳を見ながら、

「直接の接触はなくても情報はあったと思うよ」

 ハルは家系図を書き足す。

「ナジェリー国のエステル様とカルロス殿下ははとこに当たる。つまりアネッサ殿下もはとこなんだけど、彼女はとても殿下を可愛がってたみたいだ」

 おそらく5年前の出来事も含め、アネッサからカルロスにシルヴィアの話が伝わっていた可能性が高い。

「……つまり、理由なんてなんでも良かったわけね」

 ぎゅっと手を固く握りしめたシルヴィアはイヤになるほど自分の中に流れる血を意識する。

「結局"シルヴィア"じゃなくてもいいんじゃない」

 シルヴィアは冷めた気持ちで、カルロスにとって必要だったのはなんだろうとシルヴィア・ブルーノ公爵令嬢の肩書きに付属するものを並べる。
 公爵家という血統や権力?
 他国とのパイプ?
 それとも、ルキという国の重要機関に食い込める兄を取り込むため?
 どうせ誰も私自身を見てはくれない、とひとりぼっちで屋敷にいた過去の自分が囁いてシルヴィアは表情を暗くして下を向く。

「シルちゃんは十分魅力的だよ」

 椅子から立ち上がったハルは、シルヴィアの側まで来ると腰を折り、彼女の手を優しくとって微笑む。

「……ハル、さん」

「それにとっても頑張り屋さんだ」

 ずっと見てきた僕が保証する、と言ったハルを見てシルヴィアはゆっくり目を瞬かせる。
 ハルはシルヴィアを落ち着かせるようにそっと彼女の柔らかな金色の髪を撫でながら、

「僕はシルちゃんのいいところ100個でも200個でもあげられるよ?」

 と笑う。

「本当に?」

 勿論、と頷いたハルは、

「えーとまずは。見た目が可愛いでしょ?」

 指を折りながらシルヴィアのいいところを上げ始める。

「家族、特にお兄さん思いだし。行動力あるし、自分で沢山考えられるし、好奇心旺盛だし、負けん気も強いし、自分が正しいと思ったら折れないし、途中で投げ出さないし、約束守るし、結構心配症で誰かを心配して思い悩んでる顔も可愛いよね。しっかりしてるのに抜けてるとこも可愛いし、怒った顔も可愛いし、あと泣き顔ですら可愛いし」

「ちょ、待って。待って、待って、待って!」

 ずらずらずらっと"シルヴィアのいいところ"を恥ずかしげもなく並べるハルに慌てて待ったをかけたシルヴィアに、

「まだ12個しか言ってないけど?」

 にこにことアクアマリンの瞳が笑いかける。

「もう十分です」

 何回可愛い連呼するのと上気する頬を隠すように手で覆った。
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