公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
 ううっと照れてしまったシルヴィアを微笑ましげに見ながら、

「さっきも言ったけど、王子様は誰でも選べたんだ」

 たとえ平民でも。とハルはもう一度ゆっくり同じ言葉を繰り返す。

「そんなしがらみがない中で、シルちゃんを選んだ。僕はとっても慧眼な王子様だと思うよ」

 だって、シルちゃんは義兄さんと姉さんの自慢の妹だもんとハルはそう締めくくる。
 優しい色味のアクアマリンの瞳を見ながら、兄もこんな気持ちだったのだろうか? とシルヴィアはそんな事を思う。

「……ハルさんは、私が他国の王太子妃になったら嬉しいですか?」

 こんな事を聞いたって、欲しい答えが返って来ない事なんて分かりきっているのに。
 不毛過ぎる、と思ってもシルヴィアは言葉を紡ぐ事を止められなかった。

「誇らしいと思うよ」

 案の定引き留めてくれるわけもなく、予想通りの答えにシルヴィアは泣きそうな気持ちをぐっと堪える。

「まぁ僕的に悪役令嬢計画の一番の問題は、シルちゃんが悪役令嬢に向かないって事かな」

 シルちゃん、いい子だから目的のために誰かに意地悪できないでしょうと言いながらシルヴィアの手に小説を返却する。
 小説の重みを感じながら選択肢としてアリなのだと、ハルから悪役令嬢ではなくヒロインを勧められた気がした。

「ふふ、シルちゃんは相変わらずモテるねぇ」

 シルちゃんは可愛いもんねと全肯定はしてくれるけれど、この人の目に私は"妹"としか映っていないのだと絶望的なまでに思い知る。
 知っていた。
 ハルが自分に時間を割いてくれるのは、彼にとって特別だからじゃない。
 彼が大切に思っている(ベル)の義妹だからだ、と。

「ハルさんこそ、モテモテじゃないですか」

 嫌味を込めて返してみても。

「うーん、単に跡取り息子がいない家にとって外交省勤めの貴族の次男ってポジションにいる僕が都合が良いだけだと思うよ?」

 引っ掻き傷すらつけられない。
 当然だ。そもそもハルが好きだと言い寄る彼女達と同じ土俵にすら立てていないのだから。
 心に棘が刺さるような痛みを感じながらベルと先に話してきて良かった、とシルヴィアは覚悟を決める。

「まぁ、ちょっと困ってはいるんだけど」

 自分が提示するお付き合いの条件を前に早々に諦めてくれたらいいのだが、中にはそもそも交際を断れない格上の家柄の相手もいて、自分に非がある形で破局に持っていくしかないのがハルの今の現状だ。
 破局を聞きつけた誰かから声がかかるだろう明日からを思うと少し憂鬱ではある。

「じゃあ、私と契約結婚しませんか?」

 そんなハルの思考を見透かしたように、シルヴィアはそう提案した。
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