公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「ん?」

 聞き間違いだといいな、という思いも込めて聞き返すハルに、

「だから私と白い結婚しませんかって言っています」

 ハルさんはそもそも誰とも結婚も交際もする気ないんでしょ、とさも名案とばかりに言ったシルヴィアは冗談でも聞き間違いでもなく真剣にこちらを見ていた。

「誇りに思ってくれる、って言ってくれたのにごめんなさい。でも私、王太子妃になんてなりたくないの」

 この国を出たくもないし、自分の将来は自分で決めるわとシルヴィアはそう宣言する。

「うちは公爵家。公ではないにしろ2回も王族との婚姻が持ち上がってしまったらそれをふいにするわけにはいきません。かと言って、黙って思惑通り従ってやるなんて絶対嫌」

 きっと自分が望まないならルキやベルはどんな手を使ってでも守ってくれる。
 だが、そのために二人の立場を悪くするのは嫌だ。

「退けるには王族相手に婚約じゃ生ぬるい」

 兄とベルの例を見て思った。
 婚約なんて、王族の権力と国の思惑の前には簡単に覆るのだ、と。
 だが、重婚はいかなる場合も認められていない。言ってみれば婚姻は早い者勝ちなのだ。

「いや、シルちゃん。結婚、っていうのは」

 それは流石に、とハルが断るより早く、

「ハルさんにとってもメリットのある話ですよ」

 公爵家出身の私なら仕事に専念したいハルさんの条件を全部満たせると思いませんか、とシルヴィアはハルにプレゼンを続ける。
 確かに公爵位は王族の次に権力があり、その中でもブルーノ公爵家は力のある家柄だ。
 そんなシルヴィアを隣に置いたなら、今後女性関係で煩わされることはないだろうけど。

「そもそもシルちゃんのお父さんから結婚の許しが降りないんじゃないかな?」

 シルヴィアはまだ未成年。
 婚姻自体は結べるが、保護者の同意が必須だ。実質的な保護者がルキだとしても、親権者のサインがいる。

「それは心配いりません」

 ぺろっとシルヴィアは一枚の書類を見せる。

「何これ」

「和解条件書」

 そこにはびっしりと様々な条件が書き込まれており、一番下にはシルヴィアの父親のサインと紋章が押されてた。

「お兄様の時に学んだの。このままお父様の手綱を握れなかったら迷惑極まりない親心で将来干渉されかねない、って」

 ただで許すと思ってるの? と言ったシルヴィアが交渉の場についた時のルキの姿と重なって気づかぬうちにハルの背筋が伸びる。
 ハルの出していた条件になぞらえてシルヴィアは、結婚の条件を提示する。

「愛してくれなくていい。仕事を優先してくれてかわまわない。私は邪魔をしないから、ハルさんはハルさんのことをしたらいい」

 ハルが好きだ。
 でも、そもそも恋愛対象にすらなれない自分に彼からそんな感情が返って来る日は来ない。
 ならせめて好きな人が自由に生きていけるための風除けになれたらとシルヴィアは思う。
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