公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「そんなわけでハルさん。お互いの自由のために、私と契約結婚しませんか?」

 とりあえず10年くらい、とシルヴィアはさっきハルが言っていた結婚適齢期とやらの期間を上げて改めてハルに提案する。
 貴族、それも上流階級の人間にとって婚姻は大きな出来事だ。
 だというのにシルヴィアは他国の王太子妃になることを回避するためだけに令嬢にとって大事な初婚を捧げるのだという。

「なら、相手は僕じゃないほうがいい」

 真剣な濃紺の瞳の熱意を受け止めて、静かに息を吐き出したハルは真っ直ぐその瞳を覗き返す。

「僕は伯爵家の次男で爵位がない」

 それも前ストラル伯爵の庶子だ。
 ハル一人なら誰になんと言われても身を立てる方法はいくらでもあるし、どうとでも生きていける。
 だが、シルヴィアは生粋のお嬢様だ。

「シルちゃん、君が今の生活を維持するなら最低でも爵位持ちに嫁がないと」

 ブルーノ公爵家はすでにルキが爵位をついでいるし、その上跡取りまで生まれた。
 平民になる覚悟があるの? とアクアマリンの瞳は説得を試みる。

「構いませんわ」

 だがシルヴィアはあっさりその地位を手放そうとする。

「知らない人に嫁ぐより、気心知れたハルさんとの共同生活の方がいいもの」

 どうせ誰かと結婚するならその方がいいとシルヴィアは主張する。

「ハルさんだって一緒にいるなら楽な相手の方がよくないです? ハルさん結構面倒臭がりだから」

 マメなように見えて実は省エネタイプですよね? とシルヴィアはなおハルに畳み掛ける。
 よくお分かりで、と苦笑しつつそれくらい長い期間彼女といたのかとハルは素直に驚く。
 ハルだって正直どうでもいい相手に引っ切りなしに言い寄られて時間を取られるよりも為人の分かっているシルヴィアの相手のほうがずっと気楽ではあるけれど。
 幼気な女の子、しかも国で割と高貴な身分の子がストラル家の人間と関わったばっかりに道を踏み外そうとしてるのに、いい大人が楽な方に流されたらダメだろうとハルはせめて自分くらいはしっかりしなきゃと首を横に振る。

「僕ルキ様と違って薄給だから。シルちゃん養う自信ないなー」

 といえば、

「ご心配なく。自分の食い扶持くらい自分で稼げますよ」

 と内定書を出してくる。

「待って。何で就職先ストラル社(うち)!?」

 しかも研究職って、と二度見したハルに、

「ちゃんと正規ルートで試験受けましたよ」

 すっごく楽しかったと卒業先の就職について話す。

「……兄さん」

 ストラル社では優秀な人材確保のため広く門戸を開けており、身分問わず就職試験を受けられる。
 そしてハルの兄であるストラル伯爵はシルヴィアを結構気に入っている。13歳頃からちょこちょこストラル社を遊び場にしていたシルヴィアには、さぞいろんな知識が吹き込まれた事だろう。
 だからといって、公爵令嬢を研究職採用ってとハルは兄の考えが理解できず軽く目眩を覚える。
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