公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜

その3.公爵令嬢と契約条件。

「ハルの弱点はね、とにかく押しに弱いのよ」

 そこが可愛いとこなんだけど、とブラコン全開のベルは楽しげに弟を語りながらカードを一枚引き、揃ったカードを場に置いた。

「仕事中はそんな感じしないけどな」

 むしろ押し強じゃない? とルキはカードを真剣に眺めながら答える。
 ムードメーカーでよく気が利くハルは外交省入職後、あっという間に職場に馴染んだ。
 先輩達から可愛がられる一方、同僚から様々な面で妬みも買うようで、時には嫌がらせも受けているようだったが、

「この間なんか仕掛けてきた相手に手柄を譲って恩を売った挙句、調子に乗ってやらかしたタイミングですかさずフォローを入れて、人生相談に乗って懐かせたり弱味を握ったりして口出しできないように封殺してたけど」

 相手の良心の呵責と飴と鞭を使い分け、あいつには逆らえない、なんて心理状態に追い込んでたとルキは逞しくて頼りになる部下で義弟のハルの職場での様子を話す。

「まぁ、限定的にというか。身内には甘々なのよ」

 フェミニストだし、と自慢気に言ったベルの手からすっとカードが引かれる。

「何せ私たちが甘々に育てましたからねぇ」

 上がりです、と楽しげに笑ったベロニカは最後のカードを場に放る。

「わぁ、さすがお姉様! 相変わらず強い」

 今回は勝てると思ったのにとちょっと悔しそうなベルに

「無理だろ、ベロニカ相手に」

 俺は早々に諦めたとため息まじりに言った伯爵の手からカードが消える。

「えーそんなことないですよ。伯爵無表情だから読みにくいですし」

 ババを引いても持っていても引かせてもぴくりとも動かないと伯爵を褒めるベロニカ。

「ゲームは勝敗が最後まで分からないからいいんですよ」

 みなさん最後まで頑張って、とベロニカが応援したところで、

「って、何でうちでいい大人が揃いも揃ってトランプやってるのよ!?」

 帰宅後使用人から来客の存在を聞きつけて客間まで足を運んだシルヴィアから率直なツッコミが入った。
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