公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「と、いうわけで。条件クリアしたので私と契約結婚してください」

 先日の出来事の報告とともに記入済みの婚姻届を持ってきたシルヴィアがハルにそう告げる。

「まともな大人がいやしない」

 ルキ様、信じてたのにぃぃぃと机に突っ伏して叫ぶハル。
 
「ルキ様、仕事の時みたく丸っとこっちに難題投げたんじゃないよね?」

 入職当初は何かと気にかけてくれていたルキだったが、最近は"ハルならできる"と、にこやかな笑顔でえげつない案件を投げてくる事が増えた。
 おかげで各所に伝手も増えたので文句は言えないけれど。

「投げていい案件と投げたらダメな案件があると思うんですよね、僕は」

 そういえば姉さんが契約婚約してきた時には、兄も匙を投げたなぁと遠い目をするハル。

「帰宅したらベルが潰した後だった」

 と兄の名誉のために正直に申告したシルヴィアだったが。

「姉さん」

 うちの姉は嫁ぎ先で何をしてるんだろうかと、家にいた時よりやりたい放題な姉に頭を抱えるハルに追い討ちをかけるように、

「あと家中差押え札が貼られてました」

 うちの中は差押えられて使えない物で溢れていてすごく不便と肩を竦める。

「ベロニカ義姉さん!!」

 他人の家で何やってるかな!? もう! と姉達の悪行と悪ノリにため息しか出てこないハルだが。

「ストラル家はすっごく素敵だなぁって、改めて思ったわ」

 とシルヴィアは率直な感想を告げる。

「シルちゃん」

 少し変わっていて、きっと貴族らしくない型破りなストラル伯爵家。それでもハルにとってはどんなものより大事な家族。
 誰も彼もに受け入れられるわけではないし、今でも過去の悪評を囁かれる事もある。だというのに姉が公爵家に嫁いだ途端、手のひらを返してすり寄ってくる貴族たち。
 言った方は忘れても、受けた傷は無くならない。過去自分達が何を言ったかも綺麗に忘れ、平気な顔で愛を囁く。ハルはそれが何より嫌だった。

「だって、こんな無茶苦茶を許してくれるお家なんてそうないわよ」

 ふふっと楽しそうに婚姻届を撫で、

「ハルさんに、本当に好きな人ができたらごねずに別れてあげる」
 
 期間限定で構わないから、そんな素敵な家族の一員にして欲しいとシルヴィアはハルに頼む。

「あのね、シルちゃん。兄のように慕ってくれるのも信頼してくれるのも嬉しいんだけど。僕も一応健全な大人の男なわけですよ」

「うん? 知ってるわよ?」

 それの何が問題? と首を傾げるシルヴィアを見てハルは思う。
 とても純粋で、疑う事を知らないほど綺麗なシルヴィアは、自分には高嶺の花過ぎる、と。
 その身体には自分とは違い本物の高貴な血が流れているし、望めば王太子妃にもなれる。
 沢山の可能性があるシルヴィアの未来を、今ここで決めてしまうのはもったいない。
 でも、何を言ってもきっと頑固な彼女は聞き入れないから。

「分かった。いいよ、結婚しようか」

 ただし、形だけとハルは淡々とした口調で了承を告げる。
 言って分からないなら、やって分からせるまでかとハルはいつもと同じ手法を取ることにする。
 つまり、彼女自身が音を上げて出て行くように仕向ければいい。
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