公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜

その4.公爵令嬢と新生活。

 白衣を纒い、髪を結い上げたシルヴィアはネームプレートを見て顔がにやけそうになる。
 シルヴィア・ストラル。
 結婚した事を不用意に漏らしてはいけないとハルと契約条件で約束している。
 だから学校や他の場所では旧姓のままシルヴィア・ブルーノで記載されているけれど、伯爵が用意してくれたアルバイト用のネームプレートはストラルで記載されていた。

「伯爵、本当にありがとうございます」

 自分から主張したわけではないのだからこれはセーフのはず。
 この結婚が形だけのものでしかないなんて、契約結婚を持ちかけたシルヴィア自身が誰よりも分かっている。
 愛もなければ、結婚式も、指輪もない。ないない尽くしの結婚だけど、それでもずっと好きだった人とお揃いの名前になったという事実に浮かれるなと言う方が無理だった。
 伯爵の計らいに感謝しつつ、シルヴィアはネームプレートを首からかけた。

 卒業課題を早々に出して卒業を確定させたシルヴィアはもう学園に行かなくても問題ない。
 本来なら残りの期間は人脈作りに当て、卒業後社交界での立ち位置を確立させるものだけど、公爵令嬢を辞めるシルヴィアには関係ない。
 物理的に距離を置けば王子のアプローチもなくなり、王太子妃候補なんて噂も消えるだろう。
 エステルには詳細は書かず『ごめん、王子無理』とだけ手紙を送っておいたので多分大丈夫だろう。よろしく頼まれた分の義理ははたしたし。
 というわけで、堂々と学園をおサボりしてアルバイトに明け暮れることを選択したシルヴィアは、

「今日からお世話になります、シルヴィア・ストラルです」

 そう言って研究室のドアを開ける。
 この名前を名乗れるのはストラル社内だけ。
 なんか生暖かく見守られているけど、気にしないとシルヴィアは初めてのアルバイトに気合いを入れた。
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