公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
 中は思った以上に綺麗だったけれど、随分天井が低い。
 それになんで家の中にこんなに箱が積んであるのだろう。ハルは意外と片付け苦手なのかしらなんて思っていると。

「さて、と。無事に辿り着けて良かったんだけど、さっそく僕は君に言わないといけない事がいくつかできた」

 座って、とダイニングテーブルの椅子を勧められたシルヴィアは静かに座る。
 普段使っている公爵家の豪奢な椅子とは違い、木製のそれはあまり座り心地の良いものではない。
 が、それ以上に気になるのはハルの表情。いつも優しく笑っているハルとは違い、呆れを前面に出している。
 すっごく新鮮と目を瞬かせるシルヴィアに。

「その1、ここ集合住宅だから。大声出さないこと」

 近所迷惑です、と淡々とした口調で怒られた。
 その怒り方がやらかした時に伯爵に怒られる時と似ていてシルヴィアは自然と背筋が伸びる。

「その2、この荷物の量は何?」

 大量のダンボール箱をさして盛大にため息をつくハル。

「庶民のアパートに君の持ち物全部入るわけないでしょ」

 部屋に入りきらない分が廊下やリビングに溢れて困ってるんだけど、と呆れた声で告げられる。

「えっ!? これ、全部私の……?」

 荷造りした時は厳選に厳選を重ね、シルヴィアとしては最低限の荷物のつもりだった。
 自室で送付前に確認した時は随分コンパクトにまとめたな、なんて我ながら感心したのに。

「姉さんに相談したりしなかったの?」

「し、なかった……です」

 ベルから手伝おうか? と言われた時即座に断った。

「……自分の事は、自分でって思って」

 ハルと約束したのだと告げたシルヴィアにベルが、

『何事も経験ですね』

 とまとめた荷物を見てそう言っていた事を思い出す。
 自分で、とシルヴィアが言ったから、ベルはこうなると分かった上であえて助言をしなかったのだとシルヴィアはあの言葉の意味をようやく知る。

「このドレスとか大量の靴とか、いつ使う気?」

 このジャンルだけで何箱あるの? とハルはいつもとは違いとても冷たい口調でそう尋ねる。

「本当に庶民やる気ある?」

 ベルが婚約者として公爵家にやって来た時、彼女の持ち物は小さな旅行用カバン一つだけだった。
 嫁いできた時ですら物の少なさに驚いた。
 公爵家ならなんでも揃っているし、必要なモノは嫁いでから揃えるのだと思っていたけれど。
 よくよく考えたらベルの私物は嫁いで来た時とあまり変わっていない。
 増えたのは兄がアレコレ勝手に買い足したりプレゼントしたモノばかり。
 ベルは散財する方じゃないし、物持ちがいいからだと思っていたけれど。

『自分で管理できるように、ルールを決めているんです。1着買ったら1着処分するとか』

 ドレスを衝動買いする自分とは違い、ベルはいつも自分の持ち物を把握していた。

「……だって、やった事……ないもの」

 旅行にはよく行くが、旅支度だって全てメイド任せだったシルヴィアに、新生活で必要なものが分かるはずもなく。
 ぎゅっと手を握りしめて俯くことしかできない。

「まぁいいや。とにかく、週末までに片付けて」

 淡々とした口調と呆れを馴染ませた大きなため息。いつもなら、失敗しても目一杯過程を褒めてくれた後、じゃあ一緒にやってみようかと笑いかけてくれるのにそれもない。
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