公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「その3、これは契約結婚という名の共同生活なんだから、共有スペースに私物の放置厳禁だから」

 最低限のマナーは守ってと言ったハルに、

「あのぅ」

 そろっと遠慮がちに手を上げて発言の許可を求めるシルヴィア。

「何?」

「ごめんなさい、集合住宅とか共有スペースって何ですか?」

 聞きなれない言葉にシルヴィアは首を傾げる。

「……そこからか」

 額に手を当て、信じられないものでも見るかのような視線を送ってくるハルを見て、すっごく面倒臭そうだわと思いつつシルヴィアはハルの言葉を待つ。

「まず、このアパートだけど。ドアが外にあったでしょ。その数分居住スペースがあって、共同でこの建物に住んでる」

 隣が空室だから今はうちを入れて5世帯が住んでいるとハルは説明する。

「一階の右端に住んでいるのが大家さん。つまりこの建物の持ち主。大家さんに毎月家賃を払ってここを借りてる」

 ここまではオッケー? とシルヴィアの反応を見ながらハルはアパートについて説明していく。

「部屋は二部屋あって、一つが君の私室。僕が使ってるのはそっち。僕の部屋には絶対入らないこと」

 もちろん僕も君の部屋には立ち入らない、とハルは共同生活のルールを告げていく。

「で、ここがリビングダイニング兼キッチン。割と広い方だと思うよ」

 とハルはいうが、ちょこちょこ厨房を出入りしたことのあるシルヴィアからするとびっくりするほど狭い。
 公爵家と比べるほうがおかしいのだが、生粋のお嬢様であるシルヴィアからすれば衝撃だった。

「ここと、あとそこがお風呂でそっちトイレ。ここが全部生活共同スペース。一緒に使う事になるわけだから、掃除もちゃんとしてね」

 家にあるものは好きに使っていいよとハルはざっくり説明する。

「お風呂とトイレ……が共用」

「庶民の家には普通一つしかないんだよ」

 公爵家みたいに部屋ごとに全部ついてるわけないでしょと言ったハルは、

「帰りたくなった?」

 いつでも帰っていいよ、と意地悪げな表情で笑う。

「結婚したら婚家のルールに従うものよ」

 たとえこれが白い結婚でも、とこのくらいでは引かないと強がる濃紺の瞳に了承を告げ、ハルは説明を続ける。

「ここの家賃がコレ。今までの僕の光熱費がこのくらい。家賃は折半、光熱費はこれを上回る分を君の使用分と見なして請求する。食費その他自分にかかるものは自分で出して」

 毎月きっちりと付けられた家計簿。
 多少なりと私財もあるし、これからアルバイトだってするのだ。
 どうとでもなるだろうとシルヴィアは頷く。

「公爵家に援助を頼むのは禁止。自活する、って約束だからね」

「分かったわ」

 正直、家計簿にかかれている生活費が少なすぎてびっくりする。シルヴィアの一月分のお小遣いより少ない。これならきっと楽勝だろう。

「あっさり了承するね。生活水準下げるのって結構大変なんだよ」

「自分で決めた事だもの」

「ふふ、いい心がけだね」

 じゃあ、今日からよろしくとハルは告げると。

「お風呂沸かしといたから」

 初日はサービス。あとは自分で、と言って自室に下がっていった。
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